[ Life under COVID-19 ] 日本 JAPAN (TOKYO)

TOKYO
Pocket

text : GOLGO  NIGHT

日時:2020年4月8日(水)
場所:東京、日本

4月7日午後5時43分、新型コロナウイルス感染症の拡大にともない日本でも緊急事態宣言が発令された。

AFPの記事によると7日午前4時時点での感染による世界の死亡者数は7万3139人、厚生労働省のHPによれば同日12時時点で国内の死亡者数は80人となっている。当然、どちらの数字も時間の経過とともに増えてゆくだろう。

AFP

 

日付を遡ってみると、中国の湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎として最初の症例が確認されたのが2019年12月、2020年1月23日には早くも都市の封鎖措置が開始された。韓国では1月19日に仁川空港で中国人女性が発熱のために隔離され、検査の結果新型コロナウイルスに感染していたことが判明した。

この頃の日本の様子や自分の意識がどんなものだったか覚えていないが、HIDEYOさんのレターを見るとちょうど中国での春節にあたる1月25日にトランジットのため上海に立ち寄った際の様子が書かれている。空港では西洋人たちもみんなマスクをしていたということだ。

[レター] a letter from THAILAND, vol.5(written by HIDEYO BLACKMOON)

 

ツイッターを振り返ってみると、この頃から国内でもマスクの買い占めや転売がはじまっていたようだ。一方で北京の日本大使館HPでは、安倍首相からの「春節を祝うとともに多数の中国人の訪日に期待する内容の祝辞」が1月24日から1週間ほど掲載されていたということだから、この時点で日本政府の危機感はほとんどゼロに等しかったということだろう。

2月3日夜、ダイヤモンドプリンセス号が横浜港の大黒埠頭沖に停泊。乗客の発熱が報告されていたため船内で健康診断が行われ、4日の夜、乗客の下船を延期する旨が公表された。5日には船内で10人の感染者を確認、神奈川県の医療機関に搬送され、クルーズ船に対しては14日間の検疫が開始された。日本国内でもこの件をきっかけに俄かにコロナウイルスの話題が日常化するが、12日の会見でクルーズ船での検疫官の対応について質問を受けた加藤厚生労働大臣は「防御服は特段必要ありません、通常の対応ですから」と答えたということだから、この時点でもまだ他人事という感覚だったのだろう。

18日、神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授がクルーズ船に乗船し、船内で感染対策がほとんどなされていない状況をYouTubeで公表。それに対し厚生労働副大臣の橋本岳が船内でのゾーニングがきちんと行われていることの例として“清潔ルート”と“不潔ルート”に入口が分けられた写真をツイートし、逆にゾーニングや安全管理がほとんど出来ていないことを露呈して話題となった。17日から、NTTグループでは感染拡大防止のために、時差出勤やテレワークの実施を本格化させた。

NNN

 

この頃には韓国での感染者数が爆発的に増えはじめる。ヨーロッパでも感染拡大が広がり、イタリアでは1月31日に2人の中国人観光客の感染が確認されたのをはじめに、3月10日には感染者数が1万人を超え、全土での移動制限が発表される。翌11日、テドロス・アダノムWHO事務局長は新型コロナウイルスについて、パンデミック(感染症や伝染病の世界的大流行)相当との認識を表明した。14日、スペインのサンチェス首相は非常事態を宣言し、外出禁止措置を発動。17日にはフランスでも2週間の外出禁止措置へと踏み切った。

パンでミック発言

 

日本では2月、大阪で開催されたライブイベントの観客からクラスターと呼ばれる感染者の集団が確認される。26日に安倍首相は「これから1~2週間が瀬戸際」として国内のスポーツ・文化イベントに対して2週間の自粛を要請。続く27日には突然、全国の小中高校などに一斉休校を求める考えを表明した。29日、多くのイベントが中止や開催見合わせとなる中、椎名林檎の “東京事変” が東京国際フォーラムでライブを決行し、SNSで炎上。3月2日から、先の要請を受けてほとんどの学校で臨時休校がはじまる。4日、小池都知事により都立公園におけるお花見自粛の要請が出されると、9日、パーティー界隈では春の風物詩とも言えるイベントとなっていた代々木公園の春風(3月28・29日)の中止が発表された。12日、去年10周年を迎えたRainbow Disco Clubが2020年の開催(4月17~19日)中止を発表。

春風2020 中止

 

一方で14日、安倍首相が記者会見を開き、東京オリンピックを予定通りに開催する意向を表明。17日にIOCも同様の考えを示し、19日には小池都知事が定例記者会見で「中止も無観客もありえない」としてやはり予定通りの日程・規模で開催するつもりであることを強調。3者揃って驚くべき盲目ぶりを発揮した。22日、さいたまスーパーアリーナでK-1 WORKD GPが開催され、主催者発表で6500人の観客が入場した。

オリンピック

 

23日、小池都知事は記者会見で「感染の爆発的な増加を避けるためロックダウン(都市封鎖)など強力な措置を取らざるを得ない状況が出てくる可能性がある」と述べ、ツイッターでも “ロックダウン” がトレンド入り。24日夜、それまでの主張とは一転して東京オリンピック・パラリンピックの延期が発表される。1896年に初開催されて以来、近代オリンピック124年の歴史の中で開催が延期されるのは初めてだということだ(中止は3回)。オリンピックの延期決定により、この後国内の新型コロナウイルスに対する見方や対応も一変することになるが、ここまでなんとしてでもオリンピックを実施しようとしていたことは今考えても狂気の沙汰としか思えないし、それまでの姿勢について説明も謝罪もなく何事もなかったかのように記者会見を繰り返す姿に憤りを感じる人も多いだろう。

オリンピック

 

イギリスでは23日夜、ジョンソン首相が演説を行い、国家の非常事態だとして不要不急の外出を禁止した。「今夜から英国民に簡単な指示をします、必ず家にいなければなりません」

25日朝、ロンドンに住む友人のマリオンからメッセージが入る。外出禁止時の心構えのような内容で、野菜を買って保存しておくこと、家飲み用にお酒を買っておくこと、家で楽しめるゲームや本を用意しておくこと‥‥など。常に楽天的な彼女から深刻な内容のメッセージが届いたことに驚く。昼過ぎに実家の母親に電話し、野菜を中心に食料の備蓄をしておいた方がいいと伝える。

同日夜8時、小池都知事が緊急の記者会見を開き、1日に発表する感染者の数としてはそれまでで最も多い41人の感染が確認されたと発表。「感染爆発 重大局面 オーバーシュート」などと書かれたボードを掲げて見せ、イベントの自粛、夜間や週末の外出自粛などを求めた。翌日、都内のスーパーマーケットは食料や日用品の備蓄を買い求める人たちで大混雑した。マリオンのアドバイスに従い、うちでも食料などの備蓄を用意した。

小池都知事

 

土曜の28日は暖かな好天だったため、外出自粛が要請されていたにもかかわらずお花見や行楽などに出かけた人も多かったようだ。夜は安倍首相が記者会見を開くが特に重要な情報はなかった。日曜の29日には関東地方全域で雪が降った。週が明けた30日、夜8時半ごろから小池都知事がまたしても緊急の記者会見を開き、いよいよロックダウンかと思わせたが、緊急・重要な情報は発信されなかった。

東京で雪 3月29日

 

自分の勤務先では3月2日から、出勤前に自宅で検温し、その日の体調とあわせて事前に連絡を入れるよう指示が出る。同じ時期から出入り口にアルコール消毒液とマスクが置かれているようになり、取材時には必ずマスクを着用すること、こまめに手を消毒することなどのルールが周知された。取材以外で、事務所にいるときにもマスクをしているのは自分のほかに1人だけで、他のスタッフは同じ部屋でノーマスクのまま作業をしている。

通勤には小田急線と千代田線を使い、片道1時間ほど乗車しているが、取材先によって出勤時間が異なるため、ピーク時の乗車率の変化などはまったくわからない。だいたい午前10時前後の電車に乗ることが多いが、テレワーク等が推奨されはじめた2月中旬ころから徐々に乗客の数は減ってきている。とはいえ日比谷駅あたりまでは満席+立っている人でソーシャル・ディスタンスなどまったく取りようもない。外出禁止の措置をとり、感染拡大防止のためにとにかく人との接触を避けているヨーロッパや米国などから見れば異常で、もはや憤慨に値する光景なのかもしれない。いまだにマスク不着用の人も1車両に数人は見かける。

4月に入り、職場からは新たな取材先とのアポイントは取らず、すでに約束した取材先も出来るだけキャンセルして人と接する機会を極力減らすようにと指示が出る。そして7日、緊急事態宣言が発令されたことにともない、翌日から自宅勤務となる旨が伝えられた。

7日、緊急事態宣言

 

新型コロナウイルスはすべての人の生活に影響を与えているが、まさに直撃されている業種・業界も広範囲に及ぶ。旅行会社に勤めている友人は当初はキャンセル手続きに忙殺され、その後も大変な状況が続いているようだ。キックボクシングジムを経営する元日本チャンピオンの友人も恐らく大打撃を受けているに違いない。そしてアート・エンタテイメント業界も直撃を受けている業界の1つだ。イベントの自粛・中止によりアーティスト、関係スタッフ、会場の経営者など多くの人たちがダメージを受けている。

3月25日、DJ NOBUがクラブやライブハウスの経営悪化への支援を求めるため共産党の小池晃参議院議員らと話し合いをし、翌26日、菅義偉内閣官房長官に直訴を行なった。27日は自ら発起人となり#SaveOurSpaceの活動を開始。「新型コロナウイルス感染拡大防止のための文化施設閉鎖に向けた助成金交付」のための署名活動がはじまり、僅か数日で集まった30万人を超える署名は4月1日、政府与野党協議会へ出席する各議員へ要望書とともに提出された。

DJ NOBU

 

先に書いたRainbow Disco Clubは4月18日に有料配信による12時間のパーティー開催を決めた。チケット購入者はライブ配信だけでなく、25日までアーカイブでの視聴も可能、ZOOMを使用したバーチャルなダンスフロアも用意される予定だ。

▪️Rainbow Disco Club

https://rainbowdiscoclub.zaiko.io/e/somewhereundertherainbow

 

営業を自粛中のライブハウス 中野 heavysick ZEROでは4月4日からクラウドファンディングを開始。すでに目標金額を大幅に上回る支援が集まっている。同様のクラウドファンディングは京都のOKTAVEやWORLD KYOTOでも実施されている。

▪️中野 heavysick ZERO

https://camp-fire.jp/projects/view/253505

▪️OKTAVE KYOTO

https://camp-fire.jp/projects/view/254803

▪️WORLD KYOTO

https://camp-fire.jp/projects/view/254601

 

ライブハウスだけではない。30周年を迎える京都の老舗 CLUB METROや、Taguchiの平面ユニットスピーカーシステムを装備した表参道のventでもクラウドファンディングを実施し、この難局を乗り切ろうとしている。DJ BAR 高円寺 CAVEでもDJ TSUYOSHIが発起人となってクラウドファンディングがはじまった。渋谷でパーティーカルチャーに貢献してきたEN-SOF TOKYOも自粛休業を強いられ寄付を募っている。

▪️CLUB METRO

https://camp-fire.jp/projects/view/255131

▪️vent

https://camp-fire.jp/projects/view/253787

▪️DJ BAR 高円寺 CAVE(4月9日追記)

https://camp-fire.jp/projects/view/254758

▪️EN-SOF TOKYO(4月9日追記)

https://camp-fire.jp/projects/view/253211

 

存続のために次々とクラウドファンディングが立ち上がっているが、集まる支援額にはかなりのバラつきがある。出来ればすべてのお店に生き残ってもらいたい。支援する側にも限りがあるから、パトロンになる際には各店の支援状況を確認しつつ支援先を選んで欲しい。いづれにせよ長期戦になることが予想される。一過性でなく継続した支援が必要だ。

 

渋谷と吉祥寺で映画館を運営するアップリンクは無症候性キャリア(サイレントキャリア)が起こす人混みでの感染防止のために休館を決め、オンライン映画館「アップリンク・クラウド」で配給作品60本を3カ月間視聴できる有料の配信キャンペーンをスタートさせた。

外出しなくても映画は観れる!オンライン映画館でアップリンクの映画60本<以上>見放題

 

週末の営業を自粛している下北沢の本屋B&Bはオンラインストアを開始。出版流通に乗らず、限られた場所でしか売っていない書籍や文章のpdfデータをデジタルリトルプレスとして販売しはじめた。

▪️本屋B&B

https://note.com/numa/n/n62b256d5748c

 

補償のない自粛要請による危機が打ち寄せる中、このようにDIYをさらにDIY化したような試みはあらゆるところで行われている。ウイルスによる脅威と、信用も信頼も出来ない政府との二重苦に晒された状況の中で、我々はアートやエンタテイメントがどれほど脆い砂上に築かれていたのかを思い知り、自らの無関心や無力感に気づかされて愕然としてしまいそうになるが、できることはまだまだいろいろあるはずだ。幸か不幸か、家の中でじっとしていることを強いられた我々は、引き換えに普段よりたっぷりとした時間を手に入れた。今まで自明のものとして身近にあったアートやエンタテイメントといったものを見つめ直し、インディペンデントであることの意味や意義を再考してみることもできるだろう。強い者と弱い者とその間の者たちが、危機の中でどんな振る舞いをし、どんな言葉を投げかけるのか聞き耳を立てることも必要かもしれない。

『AKIRA』の中で超能力をもった少女は語る。

「未来は一方向だけに進んでいるわけじゃないわ、私たちに選べる未来もあるはずよ」

AKIRA

 

新型コロナウイルスの騒ぎが収束したあと、そこにあるのはすでに今まで慣れ親しんできたものとは違う別の世界だ。もし望むなら、それをAlternative Worldと呼ぶことも可能だ。我々ひとりひとりが今ここでどのような心意気を持ち、何をするのか。それらがそのまま新しい世界のピースとなるはずだ。

 

日本国内の新型コロナウイルス感染者数及び感染による死亡者数(2020年4月16日時点)

感染者数:8626人
死亡者数:178人

出典:worldometer

 

[ Life under COVID-19 ] インド INDIA (GOA)

[ Life under COVID-19 ] ドイツ GERMANY (BERLIN)

[ Life under COVID-19 ] ブラジル BRAZIL (SãO PAULO)

[ Life under COVID-19 ]タイ THAILAND (KOH PHA NGAN)

[ Life under COVID-19 ] イギリス UK (LONDON)

[ Life under COVID-19 ] オーストラリア AUSTRALIA(MELBOURNE)

[特集] Life under COVID-19 ~ポストコロナ社会へ向けて~

Pocket