texts : Golgo Night, interview : Ricardo Nakahashi
日時:2020年4月19日(日)
場所:サンパウロ、ブラジル
新型コロナウイルスによる感染者が最初に確認された中国からみてブラジルはほぼ地球の真裏にあたり、距離的に一番遠い地域と言える。国内での感染者が確認されたのも、アジア、ヨーロッパ、オーストラリア、北米などと比べて遅かった。
しかし感染拡大のスピードは速い。4月16日の時点で感染者数は3万0425人、死亡者数は1924人となっている。州別でみるとサンパウロ州が最も多く、感染者数が1万1568人、死亡者数が853人で、2番目に多いリオデジャネイロ州の感染者数3944人、死亡者数300人と比べてどちらも3倍近い数字だ。
特集[ Life under COVID-19 ] の企画をはじめた当初、“ブラジルのゴア” とも称されるバイーア州 TRANCOSO トランコーゾの隣町である ARRAIAL D’AJUDA アハイアルダジューダに住む日本の友人にレポートを依頼していたが、諸々の事情に加え、今回の新型コロナウイルスに関する事象については上記の通りサンパウロ州が突出して感染拡大が進んでいることもあり、予定を変更してサンパウロの友人に状況を聞くことにした。
まずは以下、時系列に沿って主な出来事をまとめてみる。
2020年1月
28日、南東部ミナスジェライス州で中国から帰国した22歳の女性が呼吸症状などで州都ベロオリゾンテの病院に入院。この時点でブラジル国内での新型コロナウイルス感染者は確認されていなかったが、感染の疑いがあるとして、緊急オペレーションセンター(COE)の評価がレベル1からレベル2に引き上げられた。COEの評価段階レベルは3段階あり、レベル2は『差し迫った危険』に該当。この日以降、保健省は連日新型コロナウイルス感染状況を公表するようになる。
2020年2月
国内の各業界団体はビジネスへの影響が出はじめていることを発表。電気電子分野の企業を対象に実施した調査では、とりわけ携帯電話やコンピュータ分野の企業による回答が目立ったとし、22%の企業は「この状況が続けば、この先数週間で製造活動をストップせざるを得ない」と回答。
6日、政府は新型コロナウイルス対策法を発令し、国際的緊急事態に対しての措置を定めた。
7日、武漢滞在者など中国に滞在し帰国を希望するブラジル国籍34人の帰国を支援するため空軍機2機が中国へ出発。ジャイール・ボルソナロ大統領は、8日未明に中国からの帰国者を乗せた帰国機がブラジル領内に入った時点で、「あなたの国ブラジルへようこそ。われわれは同じ一国民、兄弟であり誰も見捨てることはしない」と帰還を歓迎するメッセージを送った。国内では当初、さまざまな理由から帰国を支援すべきか、賛否両論が続いていた。
19日、感染の疑いがある人は2人に減少。この時点までに感染疑いのあった48人の検査を完了し、そのすべてが感染していなかった。
26日、サンパウロで国内初かつ中南米で初となる感染者を確認、COE評価でレベル3となる『公衆衛生上の緊急事態』を宣言した。
「新型コロナウイルスの感染国が拡大しており、今後、ブラジルでの感染が増える可能性がある」
2020年3月
2日、検査キット3万個を9日以降に国内各地の研究機関に配布すると発表。
4日、国内で3人目となる感染者を確認。この時点で日本を含む33ヶ国を監視対象国とし、これらの国からの渡航者にはブラジル入国後14日間に発熱、せきなどの症状が出た場合は直ちに検査を受けるよう推奨。サンパウロ市内の薬局やスーパーでは、アルコール消毒液やマスクなどが売り切れる状態に。
12日、ファビオ・ワジンガルテン大統領府広報局長の新型コロナウイルスへの感染を公表。同氏は、7~10日にボルソナロ大統領が米国フロリダ州にトランプ米大統領を訪問した際にも同行していた。
13日、ブラジルへの入国者に対し、症状がない場合にも7日間の自宅滞在をするよう推奨。人が集中するイベントのキャンセル・延期、混雑時の買い物を避ける、などの推奨措置を発表。
「今回の措置を導入しなければ、新型コロナウイルスは3日で倍増を続ける可能性がある」
17日、新型コロナウイルス感染による国内初の死者を確認。サンパウロ州とリオデジャネイロ州で非常事態が宣言された。
ボルソナロ大統領「経済は好調なのに、一部の州知事はそれを台無しにするような措置を取っている。必要なのはこうしたヒステリーを抑えることだ」
21日、サンパウロ市で都市封鎖が開始。
24日、サンパウロ州では4月7日まで「不要不急の商業活動」が原則禁止となる。医療機関や食料品店、銀行などを除き、州内すべての商店や飲食店が閉鎖。
感染による死亡者数は100人を越えて114人に達した。感染者数は3904人で致死率は2.9%。直近1ヶ月の感染増加のペースはイタリアや米国を上回る。
29日、ボルソナロ大統領は全国規模の隔離を命じるよう求める州知事たちとの論争を跳ね返し、パンデミック軽視の姿勢をますます鮮明にした。
「ウイルスは存在する。(中略)私たちはみな、いずれは死ぬのだ」
30日、空路による外国人の入国を禁止。すでに陸路や海路での入国は禁止しており、事実上の国境封鎖となる。
31日、アマゾン奥地の先住民族で初めて感染者を確認。
2020年4月
4日、国内感染者が1万人を越えて1万0278人に。ボルソナロ大統領は、WHOなどが勧める社会的隔離措置は経済破壊を招くとして、反対の立場を崩さず。
「家に閉じこもり、夫あるいは妻とキスをする時までアルコール消毒するのか。こうした風潮は取り除かなければならない」
10日、先住民のヤノマミ族でも初の感染による死者を確認。国内の死者数は1000人を越え1056人、感染確認者数は1万9638人。
12日、リオデジャネイロのシンボルであるコルコバードの丘のキリスト像がプロジェクションマッピングにより白衣をまとった姿となり、世界各国のことばで「ありがとう」という文字が映し出され、医療現場の最前線で闘う医療従事者たちへの感謝のメッセージが添えられた。
16日、マンデッタ保健相を解任。ソーシャル・ディスタンシングを国内で最も熱心に奨励していた人物のひとりとされる同氏とボルソナロ大統領の間では過去数週間にわたり意見の対立が続いていた。
19日、ボルソナロ大統領は首都ブラジリアで集会に出席。数百人の聴衆を前にマスクをしないまま演説し、各州政府が実施しているロックダウンを批判した。
ブラジルでは、中国・韓国はもちろん、ヨーロッパや米国でも感染者が急増するようになるまで感染者ゼロの状態が続いていた。国内で初の感染者が確認されたのは3月17日のことだ。そのためかボルソナロ大統領は当初から新型コロナウイルスに対する危機感は低く、都市封鎖などの措置をとることにも非常に否定的だ。しかし下記のグラフを見てもわかる通り、初の感染者が確認されて以降のブラジルのライン(緑)は韓国(オレンジ)、イタリア(紫)、米国(薄いブルー)などと比らべても大差ないほどの立ち上がりを見せている。
加えて冒頭にも見たように、サンパウロ州の感染確認者数及び感染による死亡者数はどちらも国内のおよそ40パーセントを占める。同州の面積は約25万平方キロメートル、人口は約4000万人。ブラジルの全体の面積約850万平方キロメートル、人口約2億1000万人に対し面積は僅か約3パーセント、人口でも20パーセントに過ぎないことを考慮すれば、地域住民たちの置かれている状況が想像出来るだろう。事実、チャットインタビューに答えてくれた友人からは、これまで特集の中で紹介してきた東京、メルボルン、ロンドン、パンガン島のどのエリアよりも遥かに危機感が感じられた。
インタビューの相手はサンパウロに住む日系ブラジル人のRicardo Nakahashi。彼と最初に会ったのは2005年のニューイヤー・フェスティバル Universo Paralelloの会場だった。サンパウロと東京の時差は12時間、インタビューは日本時間の13日月曜日、22時過ぎに行われた。
interview : Ricardo Nakahashi
ブラジル、サンパウロ在住の日系ブラジル人。弁護士。Universo Paralello、Solaris Festivalなど、ブラジル国内のさまざまなビッグフェスティバルで顔を合わせたクールガイ。しかし弁護士だったとは……。
FT:now all we r suffering the influence of covid-19. I am reporting how people r liveing under this severe situation. I heard that people r forbidden to go out for about 14 days in Sao Paulo.anyway can u tell me that how is the situation around u?
COVID-19の影響が世界的に広がっています。サンパウロ州では14日間の外出禁止措置がとられたようですが、どのような状況ですか?
Ricardo:good morning my friend! alright? hope so. things are very complicated here. we are lockdown. I just go out to the market. several people have lost their jobs because trade is closed. I’m really worried. I already closed a deal I had with another partner and my sister who has business is desperate with the bills.
the virus around here is growing, but much less than Spain, Italy and the United States
状況はとても複雑です。私たちは都市封鎖下にあり、外出出来るのは日用品の買い出しくらいです。市場が閉鎖されたことにより、職を失った人もいます。とても不安に思っています。私自身も別のパートナーとの取引をクローズしましたし、ビジネスを営んでいる妹も絶望的な状況です。このエリアでは感染が拡大しています。しかしスペイン、イタリア、米国などと比べるとかなりマシな方でしょう。
FT:at the market there r enough things?
買い物は可能ということですが、スーパーには十分な商品が揃っているのでしょうか?
Ricardo:Yeah.
はい。
FT:exactly which date did lockdown begin?
正確にはいつ都市封鎖がはじまったのですか?
Ricardo:21 of march. have things on the market, but prices have gone up. Very crazy this situation. Vegetables, rice, milk, everything on market. opportunists, capitalism.
3月21日です。商品はありますが値段はあがっています。とても狂っていますよ。野菜、米、牛乳……すべての物の値段があがっています。日和見主義と資本主義の表れです。
FT:compare with the price before lockdown, how grow up? about how many % ,could u tell?
都市封鎖前と比べてどの程度あがりましたか? 倍になったとか?
Ricardo:Notmdoubled. But 10, 15%. You can feel when pay the bill. Simple things as expensive. And there? Everything is ok? Tokyo, Friends around, Parents.
FT:now still everything looks fine. but we dont know what is really going on. that is the problem i think.
今は特に問題なく見えます。しかし実際にはどのような事態になっているのかわかりませんし、それが問題です。
Ricrdo:Nobody knows.
誰にもわかりません。
FT:u right. so u cant see ur friend?
その通りですね。友達には会えるのですか?
Ricardo:No.
いいえ。
FT:at all?
まったく?
Ricardo:For all. But obviously some people dont respect. And make dinner. But the problem is after.
誰にもです。しかし明らかに規則を破っている人もいます。彼らは食事に出掛けたりしているようですが、後々問題になるでしょう。
FT:some people ignore lockdown, u mean?
ロックダウンを無視する人たちもいるのですね?
Ricardo:Yeah, some people dont agree losing jobs. Dont believe the potential of virus. Say: malaria, another flus killing more than covid19. Some discussions like that.
そうです。彼らはロックダウンのために職を失いたくはないのです。そして新型コロナウイルスの脅威について懐疑的なのです。マラリアやインフルエンザの方がたくさんの犠牲者を出しているという人もいます。
FT:same here. what u thinka? covid-19 is much severe?
日本でも同様です。あなたはどう思いますか? COVID-19は、より深刻でしょうか?
Ricardo:Both them hahaha. Im respect, doing the lockdown, but still Working at home.
どれも深刻ですよ、ハハハハ……。ただし私は規則に従い、外出禁止を守っています。家で仕事をしています。
FT:thats good!! no jobs, cant live, right?
それはいいですね。仕事を失っては生活できません。
Ricardo:Of course.
もちろんです。
FT:how about politicians?
為政者たちはどうですか?
Ricardo:A war. Politicians are fighting each other. Some agree the lockdown other no.
戦争です。互いに争い合っています。ロックダウンに賛成の者もいれば、反対の者もいます。
FT : what is ur opinion about Jair Bolsonaro?
ボルソナロ大統領についてはどう考えますか?
Ricardo : a shame. he gets many things right, but he misses many things. has no posture of a leader or president. businessmen love him.
恥ですよ。良いこともたくさんやっていますが、多くのことで失敗もしています。リーダーや大統領としての心構えといったものがありません。ビジネスパーソンには人気があります。
FT : in terms of this corona situation?
新型コロナウイルスに対しての対応はどうですか?
Ricardo:I agree in half.
半分は賛成しますね。
FT:some plans for the people who lose jobs?
職を失った人たちに対する補償などはあるのですか?
Ricardo:They give some money. Thats all. Just to survive.
お金をくれますよ、ただ生きていられるだけの。それだけです。
FT:u know in japan they give us just 2 masks!
日本ではマスク2枚の配布が決まりました。
Ricardo:the lockdown here is to not collapse the health system, there are no respirators for everyone. Here, we dont have mask to all doctor. They are using the same mask at some places.
サンパウロでのロックダウンは医療崩壊を避けることが目的です。誰もに行き渡るほど人工呼吸器はありません。マスクすらすべての医療者に行き渡ってはいません。同じマスクを繰り返し使用している病院もあります。
FT:i heard that almost all the country is same situation especially at hospitals. so now, its really severe situation at sao paulo? the mood around the peolpe, atomosphere.
どこの国も同じような状況のようですね。とにかく今、サンパウロのムードはとても深刻なんですね?
Ricardo:Yes.
その通りです。
FT:loakdown only at sao paulo in brazil?
ロックダウンしているのはサンパウロだけですか?
Ricardo:Sp, rio, and other big cities. Others are ok.
サンパウロにリオデジャネイロ、その他の大都市です。
FT:they say up to when lockdown will continue so far? how many days or weeks?
ロックダウンはいつまで続くのでしょうか? 何日間、何週間?
Ricardo:Until this month. Maybe until 22 abril.
今月いっぱい、おそらく4月22日まで。
FT:ok, but possilbe to extend?
延長する可能性は?
Ricardo:until daily deaths start to decrease after the peak.
ピークを過ぎて、感染による毎日の死者数が減っていくまで続くでしょう。
FT:how about crimes? any change?
犯罪はどうですか? 何か変化がありますか?
Ricardo:Decrease.
減っています。
FT:decrease? thats good. what is the reason u think?
減っているんですか? それはよかったです。どんな理由だと思いますか?
Ricardo:The reason, nobody are spending going outside.
理由は簡単です、外に出歩く人がいないからです。
FT:understand. some restaurants or bars r still open, right?
わかりました。しかし営業しているレストランやバーもあるんですよね?
Ricardo:Are close. Just delivery.
閉まっています。デリバリーだけです。
FT:all?
まったく?
Ricardo:90% close.
90パーセントは閉店です。
FT:ok.
わかりました。
Ricardo:The povery population are hungry now. They depends the daily money. They have informal jobs. And dont have people to spend with them.
貧困層はお腹を空かせています。日銭で暮らしている人たち、正規の仕事を持っていない人たちです。彼らに払えるお金はないのです。
FT:how about party organizers, artist?
パーティーのオーガナイザーやDJなどのアーティストはどうですか?
Ricardo:Artists canceled. Only at live on instagram or youtube. Party your own home. nowadays, the best parties are like itinerants (the locations change) but always after those parties the best club is the d-edge architected by Muti Randolph. Anyway all clubs are closed now.
アーティストはキャンセルされ、インスタグラムやYouTubeで活動しています。ホームセッションです。サンパウロでベストなパーティーというのはそのときどきに場所を変えつつ開催されていましたが、いつでもアフターパーティーにはMuti Randolphが設計したD-EDGEが最高のクラブとして人々を受け入れて来ました。しかし今はすべてのクラブが閉ざされています。
FT:so they will run short of money. any helps?
困窮する人たちに対して何か援助はありますか?
Ricardo:Establishment are helping. Government. But its like 110 usd dollars to spend a month. Can you survive a month with this?
政府が1ヶ月に110ドル(約1万2000円)ほどの援助をします。あなたならこの金額で生きていけますか?
FT:its par person?
ひとり110ドルですか?
Ricardo:110 for month per person.
そうです、ひとり月110ドルです。
FT:10 times pls! how about rent? they have to pay the rent with this 110? i think usually only the rent is still higher than 110.
10倍は必要です。家賃も含めて? 家賃だけでも110ドルでは払い切れないと思いますが。
Ricardo:Allllll. To survive. Rent, food, bill the lights, water.
家賃、食べ物、電気代、水道代……、すべて含めた金額です。
FT:thats almost impossile.
ほとんど不可能です。
Ricardo:Welcome to Brazil povery, most 90% of population live in this condition.
ブラジルの貧困へようこそ! 90パーセントの人たちはこのような状況で生きているのです。
FT:u r in other 10%, right? u have ur job.
あなたは残りの10パーセントですね? 職があります。
Ricardo:10%. Work with own. Im a lowyer.
10パーセントです。自営ですよ、私は弁護士です。
FT:great!!
それはいい!
Ricardo:Every day need to kill or hunt a lion. I usually say this to my wife.
私は妻によくこう言います、「毎日、ライオンを狩ったり殺したりしなければならない」と。
FT:what that means?
どんな意味ですか?
Ricardo:To survive depends only by me. Im working more than before. My wife too.
自分だけの力でなんとかサバイブしなければならないということです。以前よりも忙しく働いています。私も、私の妻も。
FT : do u have any visions about the world after corona?
コロナ後の世界について何かヴィジョンのようなものはありますか?
Ricardo : nothing will be as before. there will be no return to normality. normal is now, this way. not the strongest or the smartest will survive, but the most adaptable (Darwinism).
以前とはまったく違った世界になるでしょう。普通の世界へと戻る道はありません。むしろ今の方が普通なのかもしれません。最も強い者、最も賢い者が生き残るわけではありません、最も適応した者が生き残るのです。
Ricardoとのチャットインタビューは以上のような内容だ。ところどころ日本訳に間違いもあると思うので、ほとんど手を加えずに原文も掲載した。いづれにせよサンパウロの現状を感じるには十分なものだった。
基本的にブラジル人は陽気で、体を動かすのが大好きな民族だ。ロックダウンや外出自粛などは最も苦手とする人たちだろう。ネットの情報では、ボルソナロ大統領が各州のロックダウンに否定的なこともあり、期待通りに効果があがっていないとも伝えられている。
Ricardoの言うように適応したものだけが生き残るのが自然の摂理かもしれない。しかし適応できなかったものでも安心して暮らせるのが、長い時間をかけて人間がつくりだしてきた社会であり文化だ。今、その社会や文化のあり方が問われている。