[ Life under COVID-19 ] オーストラリア AUSTRALIA(MELBOURNE)

rainbow serpent
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headerphoto:Mickstah

日時:2020年4月13日(月)
場所:メルボルン、オーストラリア
texts : SUSERI
DJ,オーガナイザー。2007年に渡豪しメルボルンに移住。19年には凱旋帰国しPeace KawaguchikoやAgaitida Okinawaなど国内をツアー。20年にはオーストラリア最大のフェスティバルRainbow Serpentに2度目の出演が決定していたが前年から続く森林大火災のためキャンセルとなった。

 

 

私はSUSERI。37歳の日本人です。

2007年に来豪し、メルボルンに移住して12年。DJ/オーガナイザーとして音楽業界に携わっています。現在の活動は、無所属のDJとしてメルボルンを中心にオーストラリア国内のギグやフェスティバルに参加しています。

新型コロナウイルスはオーストラリアでも大きな影響を及ぼしていますが、まずはメルボルンについて少し紹介したいと思います。

 

■豪カルチャーの中心、メルボルン

そもそも私がこの街にやってきた1番の理由はRainbow Serpent Festivalという、20年以上の歴史のある大型野外フェスティバルでした。このフェスティバルは毎年1月の終わりに、メルボルンから車で1時間半くらい離れた会場で開催されています。初めて参加した2008年当初は5000人ほどの規模でしたが、今では1万~1万5000人規模の大型フェスティバルとなり、世界中からパーティーピープルが一堂に会する夏のメインイベントとなっています。

Rainbow Serpent Festival

 

メルボルンはオーストラリア南東部にあるビクトリア州の州都であり、とても多国籍で文化的な街として認知されています。オーストラリアのアートと音楽カルチャーの中枢都市といってもよく、街中にアートや音楽が溢れています。バスキングパフォーマーたちが人だかりを作り、ストリートアートが至るところで見られます。壁面のグラフィティのみならず、公共の消火用ホースにアートが施されていたり、私の家の前の線路を走る貨物列車の車両1つ1つがアート作品になっていたり!!

オーストラリア、Festival Trip

 

カフェ、オーガニックフード、ヴィーガン/ベジタリアンフードなどはメルボルンでも人気で、 超多国籍なフードカルチャーが楽しめることも魅力の1つですが、私にとってこの街の最大の魅力はやはり、人と音楽カルチャー。 人種の多種多様さが本当に魅惑的です。

最もお気に入りのFitzroy/Collingwood(フィッツロイ/コリングウッド)というエリアにはお洒落なカフェ、バー、クラブ、ライブハウス、ギャラリー、レストラン、ビンテージの服屋やサブカルチャー系のお店などが軒を連ねています。中でもSmith Streetの「WabiSabi(わびさび)」はジャパニーズ・カルチャー・レストランとして人気のお店です。

wabisabi オーストラリア、Festival Trip

 

オーナーのTOMOYAさんは2002年12月の皆既日食(OUTBACK ECLIPSE FESTIVAL)の際に渡豪して以来、WabiSabi2店舗のほか複数のレストランの経営、レストランプロデュース、ケータリングなど、破竹の勢いでビジネスを展開。先見の明が素晴らしく、ヴィーガンフードのラーメンを提供するカフェ「Neko Neko」をメルボルンで初めてオープンされました。TOMOYAさんは日本のパーティーカルチャーにもどっぷりハマっていた人なので、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

Neko Neko

 

私が住んでいるのは中心街から車で約10分のKensington(ケンジントン)というエリア。シェアハウスは築120年の建物で、3メートルほどもある高い天井には装飾が施され、各部屋には暖炉がオブジェになって残されています。このストリート自体が文化遺産として認定されているようで、例え自分の持ち家だったとしても、外観は変えられないことになっています。

オーストラリアのシェアハウス

 

一緒に暮らすハウスメイトは日本人が4人、オーストラリア人が2人、エストニア人が1人と猫1匹。オーストラリア人とひと言で言っても、ここメルボルンで生まれ育ったオーストラリア人は移民2世、3世が多く、混血がとても多い気がします。両親や祖父母に2つ以上のバックグラウンド・カルチャーを持っている人も少なくありません。例えば、ハウスメイトのローラはドイツ系スイス人家系ですが、生まれ育ちはオーストラリアなので、国籍はオーストラリア人というわけです。

家ではほぼ英語で会話しています。7人というと結構な人数ですが、家の中では基本的に守るべきルールなど特に設けていません。お掃除もガーデニングも、やりたい人が楽しんでやって、時給25AUD(約1700円)が支払われる仕組みになっています。お互いがお互いをリスペクトしあうことで他人同士が1つ屋根の下で心地よく暮らすことが可能になると考えています。20代から50代という幅広い年齢層のハウスメイトたちは国際的な家族、宇宙的な家族です。縁あって、一緒に生活をともにするという素晴らしい経験を共有し、笑いの絶えない日々を送っています。

オーストラリアのシェアハウス

 

 

 

 

■大火災からパンデミックへ

2020年3月6~10日、私はオーストラリアのヴィクトリア州の郊外で行われていた7000人規模のEsoteric FestivalにDJとして参加していました。

オーストラリア フェス

 

Esoteric Festivalは2017年からはじまった、比較的新しいPsychedelic music festivalです。私は初めての参加でしたが、会場の5つのすべてのステージの造りが素晴らしく、メルボルン郊外のフェスティバルには珍しい、森の中にステージがある(ほとんどのフェスは木陰の少ない荒野で行われる)というセッティング!! 素晴らしいサンセットの後は満天の星空ショー。 森の中はまるで迷路のようになっていて、至るところにアートが散りばめられていました。

オーストラリア、Festival Trip

 

メインステージではTAS VISUALの、正面と左右180度100メートルの3Dビジュアルマッピング!という、オーストラリア前代未聞のヴィジュアルショーが夜のダンスフロアをめちゃくちゃトリッピーに飾っていました。あんなビジュアルと音を同時に体験したのは生まれて初めての経験でした。

会場には 人口の湖まで作られていて、シャワーも浴び放題。みんな素っ裸で泳いだり踊りまくるという、ビーチステージの出現には度肝を抜かれました。それはもうとにかく楽園的な要素満載の、超ハッピーな週末を過ごしていたのです。

オーストラリア フェス

 

フェスの最終日、ヨーロッパにいる友達からメッセージが届きました。私は前の夜に、BushTechnoというステージでDJを楽しんだ余韻に浸っているところでした。

 

“ヨーロッパでCoronavirusがアウトブレイクしている。オーストラリアでもそのうち同じことが起こるはずだから、覚悟したほうがいい”

 

それからたった1ヶ月でオーストラリアの私たちの生活は一変しました。

ご存知のようにオーストラリアでは、2019年後半から未曾有の森林火災(ブッシュファイヤー)が多発していて、夏季のピークに向けて火災の威力は強くなる一方でした。11月から翌年3月にかけては世界的に有名な大型野外音楽フェスティバルが相次いで延期または中止となり、私自身のDJのブッキングも多くがキャンセルとなりました。2月になり、30年ぶりといわれる大雨が数日から1週間ほど降り続いたことで、ようやく事態が終息。以前のオーストラリアに戻ったと思った矢先に、新型コロナウイルス ( COVID -19 ) の世界的な蔓延がはじまったのです。

メルボルン 火災の煙に包まれる

 

新型コロナウイルスに対し、オーストラリア政府は他の国々に比べてかなり迅速に対応してきました。主な対応を時系列に沿って並べてみます。

 

2020年2月
  • 1日、中国本土に立ち寄った外国人に対し、14日間の入国制限クゥアランティーン(隔離)が義務付けられる。
  • 14日、上記入国制限を22日まで延長。
  • 20日、上記入国制限を29日まで延長。
  • 23日、日本への渡航警戒レベルを「注意を強化」に1ランク引き上げ。
  • 27日、モリソン首相が「新型コロナウイルスがパンデミックになる可能性がある」と宣言。
  • 29日、WHOは危険性評価を「高い」から最高レベルの「非常に高い」に引き上げる一方、「パンデミックの宣言ではない」と強調。

AUS

 

2020年3月
  • 2日、オーストラリア国内で感染による初の死亡者を確認。
  • 11日、イタリア、韓国、イラン、中国本土を経由(または滞在)した外国人の入国を禁止。
  • 15日、オーストラリアへの入国者すべてに14日間の自宅待機を要請。
  • 18日、モリソン首相が「バイオセキュリティー上の非常事態」を宣言。オーストラリア国民の世界全域への渡航禁止。
  • 20日、オーストラリア国民と居住者、その家族を除くすべての人を対象とした入国禁止措置。
  • 22日、シドニーとメルボルンで一時的(48時間)にロックダウンとなる可能性があることを発表。
  • 23日、前日のアナウンス通り、シドニーとメルボルンの2都市で ロックダウン(都市封鎖)を開始。
  • 28日、外国籍者の入国禁止。オーストラリアの市民権、永住権保持者が自国に帰国する際は、2週間の隔離(クゥアランティーン)が義務付けられる。
  • 30日、政府は1,300億ドル(約8億9000万円)の支払いを、経済的な援助が必要な個人や、家庭に支払うことを発表。政府による経済への全面的な支援は、将来の見積もり全体で3,200億ドル(約22億円 )になり、年間GDPの16.4%に相当する。
  • 30日の時点で、結婚式での集まりは5人まで、葬式は10人までと制限。

AUS

 

2020年4月
  • 1日、国内でも州を越えての移動が禁止となる。
  • 10~13日(イースターホリディ期間)、ニューサウスウェルズ州とヴィクトリア州では 家族を訪ねることが禁止となる。他州では人数制限付き。

 

 

■ロックダウン下での暮らし

オーストラリアのロックダウン(現在はステージ3)の現状として、以下の4つの外出理由を除き、全国民に対して家にいることが義務付けられています。

4つの可能な外出理由:

  • 食品、日用品の買い物
  • 医療、介護関係
  • 自宅勤務のできない仕事 
  • エクササイズ

オーストラリアではまず1番初めに図書館など人の集まる場所、人との距離感の近いビジネス( ジム、ヘアー/ビューティサロン、 一部の小売店やナイトクラブ、バー)などのビジネスが休業を余儀なくされました。レストランに関しては一部、持ち帰りのみ営業可能です。

メルボルンには、世界的に有名な大御所のテクノ、ハウス系アーティストがプレイしている伝統的なクラブ“Revolver”や、日本人オーガナイザーのMANATO が主宰するTOKYO LOVE HOTEL が人気の“New Gernica”、Andrew Till が主宰するイベントMachineや最近ではBushTechnoというイベントが大人気の“Myaeon”など、さまざまなクラブがあり、ものすごい数のオーガナイザーやプロモーターが、相似ジャンルのイベントを被らせないためにイベントカレンダーを共有したりと、工夫を凝らし、トラブルにならないようなシステムを作っています。Myaeonでは私自身も、過去10年にわたって毎月Psytrance、Progressive、Techno、DnB などのジャンルを織り交ぜたALMOST HUMANというイベントを開催、他にも毎週のようにたくさんのパーティー、イベントが開催されていました。

オーストラリア

 

しかし3月に入ってから、人数制限が500人未満、100人未満……など、日に日に規制が厳しくなり、23日にロックダウンがはじまったことにより30日からは家族以外との集会は2人以内に制限されたため、オーストラリアの音楽シーン、特にナイトクラブのギグや野外音楽イベントのすべてが事実上キャンセルとなりました。

(わずか1ヶ月前には7000人規模のフェスにいたのに!)

 

ソーシャルディスタンシングといって、ハグや握手の禁止、スーパーなどの店内でも他人と1.5メートル以上の距離を開けることが義務付けられています。これらの規制を破った場合、最大で50000AUD(約350万円)の罰金が課せられるということです。尚、罰金の金額は各州によって異なり、例えばメルボルンでは、家の外で2人以上(同居者を除く)で会っていた場合は1600AUD ( 約9万円 )、必要項目に記載されていないビジネスを行った場合は9000AUD (約62万円 )の罰金となっています。

オーストラリア政府の緊急エコノミー対策として、個人への失業者手当、個人事業主、中小企業経営者への応急手当が早急に発案されましたが、実際のところ供給の実施はまだまだ先になると予想しています。供給元のシステムがアクセスの殺到によりパンク状態だからです。

私は音楽活動以外に、家庭や商業施設のクリーニングビジネスを経営しています。今回のロックダウンで私のビジネスは休業を余儀なくされ、収入は途絶えました。Centerlinkという、失業者や生活保護手当を管轄する政府機関に登録しましたが、現在待機中の状態です。

Centerlink,Australia

 

最近物議を醸したのは、離れて暮らす恋人同士が会うことがルール違反になったことですが、すぐにこのルールは撤回されました。

オーストラリアの国民的スポーツであるサーフィンも禁止になりました。

オーストラリア サーフィンも禁止

 

オーストラリアでロックダウンがはじまった1週間目、私も含め人々のマインドには行き先の見えない不安感、恐怖心に支配されている気配がありました。人はパニック状態に陥るとまわりのことを考えられなくなる、という状態を目の当たりにしました。例えば、スーパーでのトイレットペーパーやハンドサニタイザー、パスタやお米の買い占めは、ロックダウンの発表の直前から起きはじめ、3週間経った今、ようやく落ち着きはじめています。

私を含め、何人もの日本人の友達が人種差別の被害に合いました。ロックダウンがはじまった直後、食品を買うためスーパーに行った際、中指を突き立てられたり、罵声を浴びせられたことがありました。多民族文化のメルボルンでも、アジア人、特に中国人に対する人種差別が多発しています。実際、私がメルボルンで差別の被害にあったのは、これが初めての経験でした。

ロックダウン3週間目、感染者数グラフに減少が見られはじめました。厳しい制限は続いていますが、確実に効果が出ているということが目視できて、わずかな安堵感が生まれました。

新型コロナウイルス感染者数推移 オーストラリア

 

私たちはこれまでの人生で遭遇したことのない、想像をはるかに超えた“新しい現実”と向き合うことを余儀なくされています。安定、安心が保証された人生というものは実在しない世の中で、私自身、如何に自分の心の安定を保つかにフォーカスを置いている日々です。

パンデミックによる未曾有の緊急事態によって、私たちは他者との接触ができない小さなバブルに閉じ込められ、個々の人生の見直しを、強制的に行われている気がします。それを、被害者的な観点で悲観するか、プラスに捉えるかは、それぞれだと思います。私は、ロックダウンがはじまった日に、収入がゼロになりました。私の今までの生活は一変しましたが、不思議と絶望的な気持ちには陥りませんでした。オーストラリア政府がロックダウンと同時に、失業者手当、個人事業主や中小企業が雇用をキープできるための経済的支援策を発表したことが、国民の動揺を少しは落ち着かせた気がします。

オーストラリアのシェアハウス

 

世界の各都市でロックダウンや外出自粛がはじまって以来、facebook上には自宅発信のライブ、DJストリーミングなどが毎日のようにアップされています。私自身は、今この瞬間を精一杯生きることにフォーカス中で、自分の人生に必要なことはすべてシンプルで限られているということに気づきはじめています。生活の中にもいろいろな良い変化が起こっています。

例えば、今まで忙しいからと理由をつけて疎かになりがちだった料理ですが、毎日時間をかけて美味しいご飯を作ることが楽しみになりました。同じように仕事を失った他のハウスメイトたちと、庭にたくさんのハーブや野菜を植える計画も進んでいます。昨日と今日で雑草抜きをしました。明日からローズマリー、ミント、パセリなど10種類くらいのハーブと、レタスやネギ、ブロッコリーなどの野菜を植えるのです。

 

ハウスメイトたちはみんな超マイペース。ロックダウンでほとんどが無職になり、ほぼみんな家にいますが、今のところ特に目立ったトラブルもなく平和な毎日を過ごしています。基本的に食事は各自で作っていますが、たまにみんなでファミリーディナーをしたり(日本の鍋を作るととても喜ばれます!)、夜な夜な集まってお酒を楽しんだり、うちはDJが2人いるのでハウスパーティーをしたり……。今後ロックダウンが長くなりそうなので、ハウスメイトの誕生日にはスペシャルなディナーパーティーを計画したりしています。

外出できないから家の中できちんとドレスアップしたり、お化粧をしたりなど、1日を寝間着で過ごさないように心がけたりしています。それぞれの1日が充実するように、みんながアイデアをシェアしあっています。 今までチャレンジしたことがないことに挑戦しはじめたハウスメイトもいます。それはオンラインの英語コースだったり、ヨガだったり、ガーデニングだったり、作曲だったりします。

オーストラリア、Festival Trip

 

私たちは、とりあえずこの状況が最低6ヶ月続くことを想定しはじめました。オーストラリアではまだオーバーシュート(爆発的な感染拡大)は起きていませんが、このパンデミックの収束には時間がかかるだろうと予測しています。

ロックダウン中のメルボルンであっても、本当にラッキーなことに、素晴らしいハウスメイトとの奇想天外で笑いの絶えない共同生活を営めています。毎日が充実していることに、ただただ感謝の日々を送っています。

行き先の見えない不安に押しつぶされるより、 今この瞬間に在ること、毎日を笑顔で過ごせる環境作りは精神衛生上、とても大事だと思っています。

最後になりますが、私がメルボルンに来て、これぞ土地の音!と感銘を受けたジャンルと、メルボルンをベースに世界的に活躍する素晴らしいアーティスト/DJをご紹介します。

  • Sensient ‥言わずと知れたZenon Recordのボス。Zenonesqueというジャンルを世界中に広めた
  • Opiuo ‥Glitch Hop というジャンルを構築した、ニュージーランド生まれ、メルボルン在住の鬼才
  • Megapixel ‥日本のGrasshopper Recordに所属する、オーストラリアと日本のハーフ女性Psytrance DJ
  • Farebi Jalebi ‥Parvati Records所属、 インド出身メルボルン在住の Dark Forest の天才アーティスト

Let’s stay positive!

 

 

オーストラリア国内の新型コロナウイルス感染者数及び感染による死亡者数(2020年4月14日時点)

感染者数:6398人
死亡者数:61人

出典:worldometer

 

 

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