[レポート] しもきた0円マーケット by Shimokita 解放区 Project

Festival Trip レポート しもきた0円マーケット
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日時:2017年10月15日
会場:Shimokita解放区(下北沢、東京)

shimokitakaihoku_04

日曜の朝、目覚めてみるとやはり外は雨だ。昨日の投稿を見る限り、「少雨決行、荒天延期」「基本的には開催方向で」とのことだ。雨はしとしとといった感じで、今のところ荒天になりそうな気配はない。

うちから下北沢まで、自転車でトバせば15分ほどだろうか。しかしそれは地面が乾いていればの話だ。雨の中、自転車で行くとなるとレインウェアも着なきゃだし、正直いって億劫だ。とりあえず、なんとなく様子を見ながら家の中で過ごすことにする。

Shimokita解放区しもきた0円マーケット

なるほど、主催者側も開催か延期か迷っているようだ。確かに天気は微妙……微妙過ぎる。

今回、「くにたち0円ショップ」の主催者である鶴見済氏は怪我のため参加できないらしい。鶴見さんといえば、我々世代ならすぐに大ベストセラーである『完全自殺マニュアル』が思い浮かぶし、近著であれば『脱資本主義宣言』があり、Festival Tripperとしてはやはり『檻の中のダンス』にも思い入れがあるところだ。どれも名著で何度も読み返したし、影響を受けた作家のひとりでもある。そもそもこのサイトで1人称を「自分」と書いているのも、半分は鶴見さんの影響だ。

鶴見さんには以前、「子どもシンポ」というイベントでトークセッションに参加してもらったことがある。考えてみれば、そのときの会場もまた下北沢だった。お会いしたのはその1回きりで、もう3年ほど前のことになる。今回再会できるのを密かに楽しみにしていたのだが、残念ながら実現しそうもない。

外は雨だ。だいぶ小雨ではあるが、まだ止む気配はない。

Shimokita解放区、しもきた0円マーケット

お? やるか? そうか、やるのか……。

「しもきた0円マーケット」の記事は前日(10月14日)の土曜日にポストし、facebookにも記事へのリンクを投稿した。鶴見さんはその投稿にすぐにコメントをつけてくれて(今回鶴見さんが怪我で参加できないことはそのコメントで知った)、自分もまたすぐに返信を返した。

Shimokita解放区 残念ながら鶴見さんは怪我のため不参加

いやー、顔出すって書いちゃったもんなぁ……。雨、止まないかなぁ……。それにしても“出来るだけ”などと念のために防御線を張っておくところが、なんとも自分らしい。

なんとなく雨が止むのを待っているうちに、いつの間にか時間は16:00過ぎ。外はかなりの小雨だが、それでも自転車で行くにはカッパが必用だ。うむむむ……、行くか! とりあえずコーヒー1杯飲んでから……、それから行くか!

出発したときには既に16:30をまわっていた。0円マーケットは17:00までと書いてあったし、この天候だから予定より早めに終わるかもしれない。着いた頃には撤収しているかもな……。

Shimokita解放区、しもきた0円マーケット開催中

会場に着いた頃には、もうかなり薄暗くなっていたのだが、0円マーケットはまだ細々とだが開催中だった。3つほど並んだテントの下に、売り手とスタッフとお客さんと……、全部で10人くらいが集まっている。よかった、間に合った。

とりあえず様子を見に来たものの、自分はそれほど物欲もないし、家に新たな物を置くスペースもない。それでもせっかく来たからということで、スタッフの女性と立ち話をし、置いてあった落花生をバリボリと食い、まー、帰る前にひと通り品物を見てと……。ん? なんだこの存在感を放っているシューズは?

手にとって裏返してみると、ソールの凸凹はまだしっかりと残っていて、というかむしろ新品に近い。とは言っても靴だからなぁ、サイズが合わなきゃどうしょうもないし……、ま、履くだけ履いてみて……。お? おお! なんと大きさもピッタリではないか!

「これって……、随分新しいけど、これも0円でいいんですか?」
「ああ、それね。なんか持ち主がね、雨が漏るから捨てるっていうから持ってきたのよ、サイズ合うなら持ってってよ」

雨が? 漏る?

もう一度ソールを確認する。もしかしたらソールに穴でも開いていて、水溜まりでも入ろうものなら靴下までぐしょ濡れになるのかも知れない……。しかし左右どちらのソールを見ても、凸凹はくっきりと残っていてほぼ新品だ。アッパーもソールに比べるとやや使用感があるが、切れたりほつれたりといった部分は見当たらない。

「サイズもピッタリだし、じゃこれ、0円で持ってっていいですか?」
「よかったよかった、使ってくれれば持ち主も喜ぶわよ」
「いや~、ちょうど靴がボロくなってたから欲しかったとこなんですよ、明日から早速大活躍ですよ♪」

ビニール袋に入れてもらった靴を受け取り、もう一度お礼を言って「しもきた0円マーケット」の会場をあとにする。ちょっと様子を見に来ただけなのに、なぜか0円で靴を手に入れてしまった……。

家に着いて、もう一度靴を確かめる。
0円マーケットで手に入れたトレッキングシューズ

写真左が履いていった方のシューズで、右が0円マーケットで手に入れたシューズだ。個人的にはオニツカタイガーが好きだし(タイの国王や国民にも愛されているシューズメーカーだ)、愛妻からもらったシューズなのでギリギリまで履き続けているが、明らかにボロい! すでにソールはつんつるてんで、雨の日に履いていると駅の改札とかで危うく滑りそうになる。ソールの隅っこが黄色いのはデザインではなく、擦り切れたために下の素材が顔を出しているためだ。

それに比べて右側のシューズのソールの凸凹感といったら……。もちろんウォーキングシューズとトレッキングシューズとの違いはあるが、それにしても……、ん? あれ?!

しかもゴアテックスだった!

しかもこれ、ゴアテックスじゃん! マジか、ゴアテックスのシューズか!

なるほど、持ち主が「雨が漏る」って言ってたというのは、このことだったのか。つまりゴアテックスにもかかわらず、きっと思ったよりも雨が靴内に浸透してくるということなんだろう。しかしそうは言ってもゴアテックスだよ、俺の持ってる靴より絶対防水性高いでしょ!

恐るべし、ギフトエコノミー。俺は生まれて初めてのゴアテックス・シューズを0円で手に入れてしまった。

明日も明後日も雨予報だ。俺は早速このシューズを履いて出掛けるだろう。そして出掛けた先で、きっとこのシューズを手に入れたいきさつを話すに違いない。本来なかったはずのコミュニケーションが、そこでもまた生まれることになる。しかもそれは誰かの愚痴や、自分とはまったく関係のない世界のゴシップネタなんかじゃない。きっと聞いている方もちょっと嬉しくなるような、そんな話だ。

ギフトエコノミーというのは、もちろん「0円ショップ」や「0円マーケット」といった特別な場所だけに存在するお伽噺なんかじゃない。それは日常をどのような態度で生きるのか、という一人ひとりのアティチュードの問題だ。すべての出来事に即時等価交換の原則を持ち出し、瞬時に損得を計算して生きるのか、それとも、相手が喜んでくれたなら、ま、それでいっかー、と微笑みを浮かべながら生きるのか。

考えてみればその選択肢は、ちゃんと自分たち一人ひとりに残されていた。もちろんどこかの商店で品物を買えば、すぐその場で代金を支払わなければならないだろう。ちょっと車をぶつければ、大袈裟に騒ぎ立て、どれだけのお金を相手からふんだくったかが自慢話のように語られる世の中だ。しかしだからといって、自分まで同じようにする必要なんてひとつもない。誰かに何かをしてあげたとき、その場で何かを返してもらう必要なんてどこにもない。

自分がしてあげた行為(や物)は、まわりまわって自分のところや、自分の大好きなあのコや友達や、あるいはまったく知らない誰かのところに届くだろう。上手くすればしばらくの間、この星をぐるぐるとまわり続けてくれるかもしれない。等価交換でその場ですべてが完結してしまうより、余程夢のある話だ。

自分は今回、会ったことも話したこともない人からギフトを受け取った。次こそは自分が誰かにギフトを与えられるかもしれないし、また受け取ることになるかもしれない。与え方も受け取り方も人それぞれだし、最低限のマナーだけ守っていれば、細かいことは気にする必要もないのかもしれない。

大友克洋の名作『AKIRA』の中で、超能力を持った少女はこんなセリフを呟いている。
(下の動画の4:42あたり)

「未来は一方向だけに進んでいるわけじゃないわ、わたしたちにも選べる未来があるはずよ」

間違いない、俺たちにも選べる未来があるはずだ。忘れちゃいけない、選択肢は常に俺たち一人ひとりが持ってるんだ。

 

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