オレゴン皆既日食フェスティバルの入口、ポートランド(2)

DIY精神によるポートランドのシティ・リペア
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オレゴン皆既日食フェスティバルの入口、ポートランド(1) からの続き

ポートランドについてはまだいろいろと興味深い情報が出てきてキリがない。前回の記事ポートランド(1)では実際に市内に現れている特徴をピックアップしてみた。今回のポートランド(2)では、それらポートランドの特徴が形作られるまでの流れを見ていこうと思う。

ポートランドを表す3つのキーワード

数日前までまったく何も知らなかった自分が言うのもなんだが、ポートランドを3つのキーワードでまとめるとしたらコンパクト、サスティナブル、DIYということになるだろう。これらの要素が重なり合って“全米で最も住んでみたい都市”に選ばれているのだ。

他の多くの都市と同じように一時は工業化によって深刻な汚染被害が広まりかけたポートランドが、これら3つのキーワードを獲得していく過程を少し振り返ってみる。

1963年ポートランド

1960年代に全米で本格化したインターステイト・ハイウェイ建設とモータリゼーションにより、米国内のほとんどの都市は郊外に向かって拡大を続けた。都市の中心部と外縁部との距離が大きくなた結果、“仕事をする場”と“生活をする場”は分離され、スプロール化した都市は活力を失っていくこととなる。

こうした拡大の流れに反発し、コンパクトな町づくりを目指したのがポートランドだ。1974年に米国史上初となる高速道路の撤去を行い、その後も予定されていた高速道路の建設を中断。その予算をライトレール(路面電車)、バス、主要街路の改善に充てた。

公共交通システムを充実させ、自動車よりも歩行者や自転車を優先させる未来を選択したのだ。ちなみにこのときポートランド市長であったゴールドシュミットは、その後NIKEの副社長を務め、1986年にはオレゴン州知事にもなっている。こうして「20 minutes community(徒歩や自転車、公共交通を使い、職場も含めて普段の生活で必要なものがすべて20分圏内に揃うコミュニティ)」と呼ばれるコンパクトなライフスタイルが誕生する。

コンパクトシティ。ポートランド

1979年には都市開発を抑制し、周辺の農地と自然を守るために「都市成長境界線(Urban Growth Boundary、UGB)」がつくられた。これにより農家の人たちは安心して農業を営め、都市部の住民はすぐ近くで育てられた安全な食材を享受することができるようになり、地産地消や「Farm to Table(農地から食卓へ)」のムーブメントへとつながっていく。

ポートランドのファーマーズマーケット

少し書いただけでも羨ましいが、これらが可能であるのはポートランドの都市計画が「Metro(メトロ)」と呼ばれる直接民主制地域政府の管轄に置かれているからだ。

カダフィは自著『緑の書』の中で代議制民主主義のペテンを繰り返し指摘し、“直接民主主義は、もしそれが実現されるならば、議論の余地なく理想的な形態なのである”とまで述べているが、ポートランドでは町そのものが、“自分たちの代表の誰か”ではなく“自分たち”によって、まさにDIYによって随時生まれ変わっているのだ。

交差点は車ではなく住民のもの

そのDIY的なまちづくりのわかりやすい例としてシティリペアという活動が注目を集めている。シティリペアとは、その地域の住人が中心となって、交差点などの公共スペースを公園のような、自然と人が集まり会話がはじまるような空間へと再生させる試みだ。中でも”インターセクション・リペア”と呼ばれる、交差点をカラフルにペイントしてしまう活動がよく知られている。

シティリペア、ポートランドシティリペアについてはいろいろなサイトで紹介されているが、ここではソーヤー海氏による東京アーバンパーマカルチャーのブログと、TABIZINEの記事へのリンクを貼っておくので好みにあう方を読んでいただきたい。下の動画も日本語付きで、シティリペア運動のエッセンスがよくわかる。14分近くあるので冗長なところもあるが、実際この運動に参加している人たちの生の声を聞くことができるので、前半だけでも観てみることをお勧めする。

今に続く米国西海岸の文化は50年代のビートニクスや60年代のヒッピーたちによって生み出されたカウンターカルチャーを源流となしている。カウンターカルチャーとはつまり、拡大し続ける消費文化に対してNO!と唱える精神のことであり、上にあげた3つのキーワードはすべてこのカウンターカルチャーが内包する特徴そのものだと言える。

ヒッピー、ポートランド

2017年、米国を横断する皆既日食にあわせてオレゴン州でOregon Eclipse Festival(オレゴン皆既日食フェスティバル)が開催される。ヒッピー思想の継承者であるFestival Tripperたちが世界各地からこの地に集まり、ポートランドを経由して会場へと向かうことになるだろう。皆既日食体験と合わせて、どのような変化をポートランダーたちにもたらすのかも興味深いところだ。

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