日時:2021年8月7日〜9日(土〜祝月)
会場:ヴィレッジ白州(北杜市、山梨)
3年ぶりの開催となるiLINX。1回目の2007年から数えて今年で14年目となる老舗パーティーだ。2007年といえばトルコで皆既日食フェスティバルが開催された翌年で、民主党が政権を握り鳩山内閣が発足するのはまだ2年先の話だ。個人も社会もいろいろと変化していく年月の中で、変わらずにパーティーを開催し続けているオーガナイザーの考えを聞いた。
■ Shimomura Daijun(タケ)
パーティーオーガナイザー。高円寺生まれ調布育ち。2007年よりDJのDUBO、SAIKAWAとともにテクノパーティー iLINX をはじめる。Re:birth、GLOBAL ARK、夜春風、Sawagi Festivalなど大小さまざまなパーティーでステージマネージャーやオーガナイズ、サポートを務める
趣味:キャンプ。パックラフトを買って釣りをはじめたいと思う今日この頃
愛称:タケちゃん、ちょびヒゲ
まずはA-skが書いてくれた iLINX 2018 のレポートに掲載した3年前のインタビューを振り返ってみよう。
インタビュー 2018
◆ そもそもパーティーで遊ぶようになったきっかけは何だったんですか?
タケ:高校1年生のある時に、自分がDJやってる夢をみたんです。小~中学生の頃にヘビィメタルのバンドはやっていたんですが、DJカルチャーとはまったく縁がなかったんです。自分が16歳の時はHIPHOPが最盛期で、テレビやラジオなんかのメディアの刷り込みのせいか、そんなDJプレイをしている夢を見ました。それがとても鮮烈だったので、同じ高校で唯一DJをやってる先輩に「教えてください!」って話しかけに行ったんです(笑)。そこからその先輩に、当時あったclub『Family』『NUTS 』『ROWDY 』『R-HALL』なんかのHIPHOP系の箱に連れて行ってもらいました。当時は風営法なんてなかったですから。そうしてパーティー人生がはじまりました(笑)。
◆ 小~中学生からヘビメタ・バンド!っていうのも凄いですが、パーティーの入り口としては四ツ打ちではなくHIPHOPなんですね。このパーティーの”iLINX(イリンクス)”という名前はどこからつけたのですか?
タケ:あるフランスの哲学者がiLINXという言葉の遊びがあると言っていて、それが昔子供の頃にバットにおでこをつけてバットを軸にクルクル何回か回ってから走るというぐるぐるバットという遊びがありましたよね。そうするとフラフラになる感覚になるでしょ。僕はそのフラフラになる感覚が大好きでその感覚で踊るという意味合いを込めてiLINXという名前をつけたんです。 遠心力による身体の傾きと視覚情報のズレによって三半規管がバランス・コントロールを崩してフラフラになります。その状態で踊るという意味合いですね。そういう状態になるまでダンスでトランスして欲しいと思っています。
◆ 全体的にとてもバランスの良いパーティーだったと思いました。どこまでしっかりと打ち合わせしたんですか?
タケ:今回のiLINXに関してはパーティーの一連の流れを通して楽しんで欲しいという強い想いがあって、音楽に関しては流れをある程度作らせてもらいました。アンビエントの時間を作ることによってコミュニケーションを取ったり、ゆっくり休んでもらう時間を作りました。デコに関しては軽い打ち合わせだけで僕らの言ったキーワードをアーティストの皆さんが形にしてくれました。
◆ デコにはどんなキーワードを出したんですか?
タケ:今回はミニマルとサイケデリックというワードをテーマにしました。あのいろいろな所に転がっていたり、ぶら下がっているデコがミニマルなんだけど遠近感によってトバされる、そんな演出がありました。キーワードを元にアーティストの皆さんが最高な形にしてくれました。
◆ あのデコが本当に素晴らしい異空間を演出してくれていたと思います。ところで、Festival Tripは”旅とパーティー・カルチャー”を紹介するWEBサイトなんですが、何か旅にまつわるエピソードがあれば教えてください
タケ:高校3年生の頃に、大槻ケンヂの『オーケンののほほんと熱い国へ行く』という旅行記を読みました。それまで旅行記というジャンルの読み物を読んだことがなく、「ひとり旅」「タイ」「インド」という未体験のワードに心踊りました。世の中にはこんな世界があるんだって、とっても楽しくなりましたね。そして、高校の卒業旅行で初めてタイへひとり旅をしに行きました。そこからまた1つ扉が開いてしまったという感じで、休みという休みはすべて旅に使いました。1年間の長旅に出たこともありますし、アジアを中心に15ヶ国以上の国々を巡りました。旅先で出会った強者たちからいろいろなことを教わりました。その1つが「レイブ・カルチャー」でした。そうして第2のパーティー人生がはじまりました(笑)。
◆ なるほど、夢がきっかけだったHIPHOP中心のパーティー・ライフが、旅先でのレイブ・カルチャーとの出会いから現在のような四ツ打ちを基軸にした第2のパーティー・ライフに変わっていったんですね。とても興味深いお話でした。また機会があれば旅の話、パーティーの話などいろいろ聞かせてもらいたいと思います。では、最後にひとことお願いします
タケ:僕自身、野外パーティーに関わらさせてもらって12年になりました。微力ながらこの経験をお世話になったシーンに、そして関わっている仲間のみんなに、感謝の気持ちを込めて、何か還元できるようにこれからも頑張っていきたいと思います。
どうもありがとうございましたm(_ _)m
前回開催からの3年間は、新型コロナウイルスの感染拡大などによる大きな変化があった。特にパーティーを開催する立場としては、大きな決断や対応を迫られる場面が都度都度あったはずだ。iLINX OPEN AIR 2021 の開催を前にしたインタビューの前編では、今の心境やこの3年間の状況などについて語ってもらった。
インタビュー 2021(前編)
◆ iLINXは3年ぶりの開催となりますがこの3年間はどんな感じで過ごしていましたか?
2019年は親父が11月に亡くなったんですね。それまでずっと闘病生活を送っていて、そのサポートをしていました。正直パーティーのことを考えられる余裕はなかったですね。ただ、親父は旅に出ることも、パーティーをやることも応援してくれていました。この歳まで続けてこれたのも親父のおかげですね。感謝しかないです。
2020年はみなさんもご存知の通り、新型コロナウイルスが蔓延しはじめた年でした。去年はまわりのパーティーフリークスの間でもコロナに対する考え方が分かれていました。仲間の間でも分断が起きていて、お互いがお互いの考え方を受け入れられない状況に悲しくなりましたね。みんなが楽しめなくては開催しても意味がないと思い、中止を決定しました。
そして2021年、状況はひょっとしたら去年より悪くなっているのかもしれませんが、みんなのマインドは変わってきたと思います。まず、パーティーのように人が集まることで成り立つ娯楽を楽しむ人を、表立って否定するような意見は少なくなったと思います。細心の注意を払いながら楽しもうっていうマインドに変化してきたのではないでしょうか。みんな去年から我慢に我慢を重ねてきたと思うんです。それが昨今のアウトドアブームにも繋がってきている気がします。そういった世の中のマインドの変化も相まって、僕らのまわりからも、今年はiLINXをやって欲しいという声が届きはじめてきました。こういった状況でも待ってくれている人たちがいる、それが今年の開催を決めた原動力になりました。
◆ 新型コロナがパーティー界・エンタメ界に与えている影響についてどう考えていますか?
コロナによって、何が自分の人生にとって大切なのかを考えるきっかけができたのではないかと思います。人によっては、家族や友達、恋人を一層大切にしようと思ったかもしれませんし、またある人にとっては、音楽や演劇、絵画や映像の力など、芸術の素晴らしさを再認識した人もいるかもしれません。
これまで日本における芸術の分野って、欧米におけるそれとはまったく違っていたと思うんです。それは、国の芸術文化に対する予算の組み方を見てもわかります。例えば、フランスでは国家予算に対する芸術文化の予算の割合は日本の約10倍にもなります。小さい子供が将来なりたい職業のトップ10にDJが入る国もある。これらのことは、どれだけ国が芸術に対する教育に力を入れてるかということと、そして芸術が職業の1つとして、人生を支える糧になることを子供ながらに認識していることを如実に表しているんだと思います。国の支援がなければ、ここまではならない。
日本でも文化庁がコロナによって芸術活動の自粛を余儀なくされた団体に助成金を支払うようになりましたよね。これってすごく良い流れだと思うんです。日本の芸術の火を絶やさないというか、これで救われた人たちってたくさんいると思うし、これをきっかけにもっと新しいことをはじめようとする人たちもいると思います。僕のまわりでは、この助成金を活用してパーティーをはじめようとする人たちもいます。考え方によってはコロナによって新しい動きが産まれようとしていると思います。この流れが教育にまで波及してくれると良いですよね。これからの日本の将来を担うのは子供たちだと思うので。
◆ iLINXが開催されなかったこの3年間にもいろいろなフェス、パーティーなどにオーガナイザー側として参加していたと思います。他のフェス、パーティーについて感想や思うところを教えてください
2018年のイリンクスが終わってからは、自分を必要としてくれるパーティーがあればいろいろなパーティーに出向きました。僕らが野外パーティーをはじめた2007年頃って、ビッグパーティーが下火になり、DIYでやる小さい規模のパーティーが少しずつ増えてきたタイミングだったと思います。もっと趣味嗜好が細分化されていった時期というか。
その流れって今も続いていて、ここ2〜3年で野外パーティーをやる人が格段に増えたんじゃないですかね。今年はシーズン開幕の4月頭頃からほぼ毎週末どこかで野外パーティーが行われている。以前はこんなにパーティーやってなかったですから。小規模のパーティーが多いと思うので、例え出演者が被っていても、コミュニティが微妙に違うと来ている人が全然違ったりして、とても新鮮に映るんですよね。参加したパーティー全部に個性があって、良い刺激をもらいました。
それから、90年代からパーティーを続けている、僕らからしたら先輩たちや、2000年代中盤辺りから頑張って経験を積んだ同世代の仲間たちが、若い人たちのパーティーをバックアップする形が増えていて、野外パーティーを開催することが以前と比べてもっと身近になっていると思うんです。とても良い傾向だと思います。世代関係なく、お互い良い関係を保ちつつ、パーティーで一緒に遊んでいければと考えています。
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インタビューの後編では iLINX OPEN AIR 2021 について語ってもらいます。
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