OZORA FESTIVALのオフィシャル・フォトグラファーのひとりであるMAGUに頼んでおいたレポートが届いた。求めていた内容とは若干異なるが、これはこれでMAGUスタイルということだろうから、修正は最小限に抑え、送ってきてくれたものをそのまま掲載することにする。
ちなみに今年(2018年)のOZORA FESTIVALの日程は7月30日~8月5日。MAGUはすでに会場で撮影を開始しているはずだ。
~~~ここからMAGUレポート~~~
texts & photos : MAGU
踊るのが大好きだった。
たまらなく好きだった。
何よりも、ただただ踊り続けたかった。
今でも思い出す、1998年、インド、ゴア。 生暖かいゴアの夜の中、遠くから聞けえてくるベース音を追いかけながら、その音を頼りに バイクに乗ってパーティーの場所を探した。
ベース音が近づいて来る。遠くに淡く光るフロアのライティングが見えてくる。 近づくと縦横無尽に連らなっているバイクの群れ。 停められそうな僅かな隙間に無理矢理バイクを押し込み、ふつふつと煮立ってくる細胞の滾(タギ)りを抑えて会場へと歩く。四ツ打ちのビートが身体を揺らす。
たくさんの光。まるで祭りのように連なるチャイママ達のチャイ屋。 フロアに突っ込みたい衝動を抑え、何はともあれ近くのチャイ屋のゴザに座り、1杯のチャイを頼む。
甘いチャイ。人の熱気。何十ものチャイ屋の光とその向こうに広がるダンスフロア。 蒸し暑い夜の闇の奥でブラックライトに照らされて動めくいくつものシルエット、シルエット、シルエット……。もう耐えられない。 チャイママに飲み終わったチャイ代の10ルピーを支払い、フロアの中に突っ込んでいく。
音の波が、四ツ打ちのビートが、物理的な衝撃となって身体を貫いていく。 何百と動き、揺らめく人の顔、突き上げる腕、踏みしめる足と土煙……。 フロアーの熱気に、音に貫ぬかれながら、湧き上がる衝動をただ踊る1点に集約して、 俺は、大地を、蹴った。 湧き上がる衝動を全力で振り上げる拳に乗せて、空に向かって突き上げた。これがはじまりだった。
そして2016年7月、目の前にはオゾラ・フェスティバルの会場が広がっていた。
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ここまで来るのにも、いろいろとありまして、まず、関西を拠点に日本、ヨーロッパと活躍しているDJ Buzzが主催した大阪のパーティーにフォトグラファーとして参加。Daksinamurti のティルがゲストDJとしてやって来たときに、オゾラに行って撮影したい旨を伝えたのです。ティルからオゾラのオーガナイザーに紹介のメールをしてもらい、何回か自分の撮った写真や動画をメールで送りました。
なんやかやといろいろありつつも、フォトグラファーとしてオゾラに参加できることが決定。そして、夏の訪れとともにハンガリーのブダペストに到着。一応ブダペストからオゾラ・フェスティバルの会場に1番近い“シモントーニャ”という鉄道の駅まで辿り着いたのはよかったけれど、どうもそのシモントーニャの町から会場まで十数キロはあるらしい。フェスティバルがはじまる10日前くらいにやって来たワタクシは、もちろん会場までのシャトルバスもあるわけありません。
照りつける太陽の下、37度の炎天下をフラつきながら、その小さな町のレストランに入り、非常に怪訝そうな目で見られながらソーダ水を注文。恐る恐る、ス……、スミマセン……、オゾラ・フェスティバルに行きたいんですけれども……、と問いかけるも、知らない、何だこいつ……、という感じの冷たいリアクション。
あ〜〜〜〜、マジか〜〜。これ、もしかしてこの炎天下ん中、歩いて行かないかんパターン……??
レストランでの冷え冷えとしたリアクション以外なんの収穫もなく、再び暑気にむせる外に出て町を彷徨い歩く。1時間ほど歩きまわり、あ、こりゃ無理だ、とても歩いてなんか行けない、ちゅーか暑い! もうダメ、もういやーん! と日陰の中に逃げ込み途方にくれていると、そこにハンガリー人の家族が通りかかる。
「オゾラの行き方どうすればいいですか〜〜?? 」
と、さながらゾンビのように問いかけながら近づくと、何だこいつ、何人だ!? という怪訝な表情。完全にハンガリー語のみで英語もまったく通じない。
もうどうしょうもないんで、ただひたすらオゾラ! フェスティバル! Go! みたいな 感じで言葉2%、ジェスチャー120%、悲壮感180%、合計302%の切実さで、念仏のようにオゾラオゾラオゾラオゾラ……と呟く。 ハンガリー人ご家族(オヤジさん、奥様、息子)も、あまりの悲惨なワタクシの姿に心打たれたのか、はたまた怯えたのか、オゾラ? フェスティバル? しょーがねーから連れて行ってやるよ(推定)、と自分たちの車を指差し、ドライブのジェスチャーをする。
「Re……、Realllllllllyywyyyy!!!??? イイイイイ……、イエス! イエス! プリーズ!!」
と呻きながら、googleでハンガリー語の“ありがとう”をソッコー調べ、Köszönöm!(ありがとう!)を伝えました。
それからは快適! 言葉は通じねど開け放たれた車窓から入ってくる風は心地よく、今までの焦りと灼熱で汗まみれになっていた身体がスッと乾いていく。 あぁ〜〜、Köszönömmmm!!! ここぞとばかりに神様、仏様、ハンガリーのお国の神様、そして目の前にいるご家族様に感謝を祈りながら、ビデオカメラをまわす。
目の前を通り過ぎて行く小さな町の景色、青い空、野菜畑にヒマワリ畑……。 運転してくれているオヤジさんは、「オゾラ、ダンスダンス♪」などと片言で言いながら、踊るジェスチャーをする。それを微笑みながら見守る奥さま。 イエス! ダンス! と言いながらワタクシもフンガフンガ踊っているのを隣に座っている10代半ばの息子が白い目で見ている。
あ~、ヨーロッパの田舎の風景だな〜〜、としみじみ感じること30分。どうやらフェスティバルのエントランスらしき工事中のゲートのようなものが見えてくる。
「あ、おそらくココです! 」
運転してるオヤジさんに声をかけて降ろしてもらい、Köszönömと何度もお礼を言うと、右手を上げて、踊るジェスチャーをしながら颯爽と去っていく。 あぁ、なんてステキな家族(息子は冷たい目で見てたけど)……。ここに来るまで、何度も鬱るわ、テンション下がるわ大変だったけど、こいつは幸先がいいぜ!
ゲートの近くにいたスタッフに声をかけ、カメラマンで入るMAGUです、と伝えて無線で本部に確認してもらう。しばらく待つとオッケーが出て、ついにオゾラフェスティバルの中へ。 行くぜ! 意気揚々とゲートをくぐり、ゆっくりと歩いて行く。
そこから10分程のち……。
アーーーーーー、暑ちーーーっ!! 荷物重めーーーっ!!
先程まではテンションが上がり忘れていたけれど、とにかくこの地獄のような機材とテント等が詰まった大荷物。いったい何キロあるのだろう……。
マジかーーーっ、もうすでに汗、土埃りまみれ。街と違って舗装されていない道を重機材引きずって歩くことのツラいこと。
あーーー、もっと荷物軽くしときゃよかったーーー。
しかし初めて参加するフェスティバル会場。設備も何もわかってない。 備えあれば憂いなし! しかし現在あるのは憂いのみ! バックを引っ張ってるキャスターが砂利道にとられ、何度も荷崩れをおこす。腹減った、重い、ツカレタ……などとひとりぶつぶつ言いながら休み休み歩いてると、遠くの方に何やら建物らしきものが見えてくる。
あ、アレか……?
歩く、愚痴る、歩く、休む、歩く、歩く、歩く……。 ようやく建物が近くなり、同じ砂利道を歩いているスタッフに自己紹介してViragさんに会いたいんですけど、と伝える。
「いま忙しいからいないと思うけど、オフィスまで案内してあげる」
と言われ、ついにオフィスに到着。Viragが来るまでゆっくりしてて、ということなので、地獄の荷物を解放。そのまま少し休もうかとも思ったけれど、ようやくホントに辿り着いた! と思うと予想外にテンション上がってきて、ジッとしていられない。イソイソとカメラを取り出して散歩することにする。
オフィスから比較的近い建物にフラリと行ってみると、だいぶ日も傾いてきていたけれど、そこではまだ何人もの人が働いていた。オブジェを作っている人、フェスティバルの案内や看板を作っている人、絵のペインティングをしてる人……。
おぉおぉー、ヤバい。滾(タギ)る、滾(タギ)ってくるぅぅう。たまらず声をかけ、写真を撮っていいか 聞いてみると、みんなモチロンと笑顔で撮らせてくれる。
「これは何つくってるの?」
「このARTIBARNでデモンストレーションする作品を創ってるんだよ」
ARTIBARNとは、アーティストが集まり、絵や映像、インスタレーション等を発信する場所らしい。
「いろんな分野のアーティストが作品を創っているから、いい画が撮れると思うよ。君はカメ ラマン?」
「そう。今着いたばっかりなんだ。なんか到着したら、もうたまんなくなっちゃってーー!」
「そうだろ? だからぼくらは毎年ここで作品を創るんだよ。いろんなアーティストから触発されるからね」
「マジすかーーーっ!!」
そう、これこれこれ! これがワタクシの撮りたいもんデス! いやーー、来たゼェ〜〜っ!!
ARTIBARNをもう少し撮ってからオフィスに戻ると、赤い髪の綺麗な女性がこちらに気がつき、近づいてきてハグしてくれる。
「あなたがMAGUね? ティルから話は聞いてるわ、よろしく☆」
Virag、ハンガリー語で花っていう意味らしいその名前。凄くクールでカッコいいのに、ものすごく優しい笑顔。踊りが超絶カッコいい。その流れで何人か他のスタッフを紹介してもらう。
Wegha、メインオーガナイザーの1人。DJ Weghaとしてもヨーロッパ中でプレイし、身長も高く、外見はちょい怖で緊張。フェスティバルの設営中も開催中も、愛用のオフロードバイクで会場中を忙しく駆け巡る。 しかし後ほどわかったが、実はものすごく気さくで楽しい。一緒に酒呑むとサイコー♪
Gerely、フォトチーム隊長。写真のセレクトやフェスティバル中に発行される新聞『オゾリアン・プロフェット』の編集をやっている。渋い。
「マグはフォトグラファー・チームに入ってもらう。他のフォトグラファーはまたおいおい紹介する。その日によって必要な画があるから、みんな分かれてそれぞれにいろんなシチュエーションを撮影するんだ。今日はARTIBARN、この日はDoomとDragon Nest、というようにね」
ちなみにDoomはテクノやアンビエントがメインのステージで、Dragon NestはLiveがメインのステージだ。
「ううぉウぉ、オッケーーイ!!」
Thomas、デコレーションやオブジェの設計から設営までやっているTRIXX Decoのボス。メインステージのデザインなどもやるらしい。とっても気さくなオジさま。ちなみにデザイン、ヤバいカッコいい。 あらゆるマテリアルを使って創りあげるデザインは必見!
Rob、こちらも『オゾリアン・プロフェット』の編集、デザインを手がける。 実際の文字入れ、写真や文書の配置等はRobがメインでやっている。 ちょっと疲れ気味の表情がトレードマーク(?)。
Josko、クールで小粋なイタリア人。DJ、プロデューサー、ブッキングマネージャー。 Doomのメインプロデューサーもやっている。 古い音源から新しい音源まで、あらゆるテクノ・サウンドを紡ぎ出すJoskoのプレイ。 その後、何度もトバされた。
気がつけば、オゾラ・フェスティバルのまさにど真ん中! ただ、着いたばかりでまったくわけもわかっていないワタクシ……。
「MAGU、パリンカ呑んだことある? ハンガリーの命の酒」
Thomasが透明な液体の入った瓶をクイっと持ち上げる。
「いや、ないんですけれども〜」
立て続けにいろんな人のご紹介を受けて、辿り着いたばっかりで、何がナニやらの状態のワタクシ。おもむろにグラスになみなみとその透明な液体を注ぐとワタクシに手渡し、他のグラスにも次々に注いでいく。 全員分注ぎ終わり、それぞれに行き渡ると、日本では酒を飲むとき何て言うんだ? と問いかけてくる。
「乾杯、かな」
「カンパイ? オッケー! エビバディ、カンパーーーーーイ!!! 」
Thomasの掛け声と同時にみんな一斉に、パリンカをひと息に飲み干す。
キャキャキャ……、キャンパーい! どもりながら一気に飲み干すと、喉、食道、胃へと熱いパリンカが駆け抜けていく。
ゔぉっ、ヴオオオぉぉオぉぉおーーーっ!!
カーーーッと焼けつくようなこの感覚! これいったいアルコール何%?? 驚きで奇声を上げていると、Thomasはニヤリと笑い、カンパーーーーイ! と言いながら、 すかさずもう一杯注いでくる。
あれ? ココ、こんなノリ!? ワハハハハハハハハ!
御構いなしにカンパイ攻撃をしてきながら、自分のグラスにも注ぎ、オオっとたじろぐ間もなく、ワタクシも二杯目をかっ込む。 オぉぉおーーっ、あれ? しかしこのパリンカ? 美味い! そんなに酒系強いわけでもないんだけど、このパリンカは焼けつく割に何か飲める。
「パリンカは命の水。疲れた時でも病気の時でもこれを飲めばたちどころに良くなる!」
そう力説するThomas。しかし確かに、何か身体に力が漲ってくる気がする。
「ハンガリー語では乾杯って何て言うの?」
「Egészségedre!」
「エ、エゲシェゲレ?」
他のみんなもパリンカを注ぎなおすとグラスを掲げる。
「Egészségedre!!」
「エゲシェゲレ~~!!」
こうしてオゾラの夜がはじまった。
オゾラ・フェスティバルの面白いところ。もちろん音楽は最高! ファンタスティックな DJ、ぶち飛んだLive、さまざまなステージ上でのここでしかないステージ。
それと並行して展開されるアートプログラム、ワークショップ。 ビジュアルアート、インスタレーション、ヨガ、メディテーション、クッキングプログラム……。
では先程のARTIBARNに続いて、舞台裏でフェスティバルを創っていく様子を少しだけ紹介させていただきます。
まずはSCOLA。
毎日のコース。 テントで目を覚ます(ちなみに昨日の夜はあの後しばしカンパイ・エゲシェゲ・パーティーが続き、まだテントを立ててなかったワタクシはほうほうの体で戻り、とりあえず手近な所にテントを立て、文字通り泥のように眠りました……)。シャワーを浴び、オフィス・スペース(といってもコンテナの基地みたいな感じだけど)の近くにコーヒーが置いてあるんでそのコーヒーをすすり、タバコを吸って寝ぼけた頭を刺激する。 それからSCOLA(学校)と呼ばれる、スタッフがご飯を食べれる食堂で朝メシを食べる。 ワタクシはこっちのフェスティバルでのシチュエーションがわからなかったので、重い食料一式を持ってきていたのだけれど、ありがたいことに3食ともいただけるようです♪
朝はだいたい黒パンや丸パン等の各種パンと、チーズ、サラミ、サラダ、林檎やアプリコット等のフルーツ、コーヒー、ハーブティーといったメニュー。時間はだいたい7時半から9時半までの2時間。寝過ごすと食べられないので要注意!
だいたいみんなこのSCOLAでの朝メシから1日がはじまる。
SCOLAでは毎日100人以上の食事が作られ、先ほどの朝食にはじまり、昼、夜はハンガリーの家庭的料理が出てくる。
ベジタリアン用とお肉大丈夫用があり、好きな方をチョイス出来る。そして美味い! フェスティバルがはじまるとドタバタ過ぎて、食事時間に間に合わず、オフィスの方にある簡易的なサンドイッチとコーヒーばかりを食べることになったかけど、間に合うときはいつもSCOLAでの食事を非常に楽しみにしておりました。朝、昼はそれぞれみんな仕事に追われているので食べ終わったら食器を洗い、一服して仕事に向かう。
夜は温かいシチュー的なものをいただいた後、コーヒーでも飲みながら焚き火のまわりでくつろいで一服したり、カードゲームをしたりとまったりしている。好きな時間のひとつ。
こうして僕らはSCOLAで働くエネルギーを貰い、それぞれの場所へと向かう。
フェスティバルがはじまるまで、様々な建物が毎日少しずつその形を変えていく。
各ゾーンの建設チーム。オゾラのひとつのシンボルにもなっているMIRADOR。
ARTIBARNの奥にあり、螺旋を思わせるようなそのデザインは昼間の太陽の下でも夕闇のシルエットでも美しく映える。行くとだいたいチェーンソーやグラインダー等で木を削り、彫り込み、MIRADORの中に組み込んでいく。MIRADORでは主に絵が展示され、サイケデリック、アブストラクト、スピリチュアル、シンボリック、あらゆる刺激的なビジュアルが展開されている。
Liveペインティングやインスタレーションなども行われていて、行くたびに違う刺激がやってくる。
その様々なビジュアルをより美しく展開できるよう、MIRADORも毎年その姿を少しずつ変容させていく。木片を撒き散らしながら、木に命を吹き込む様にシェイブしていくその姿をファインダーに収める。シャッターを押す。
連続するシャッター音の中で、コマ送りのように飛び散っていく細かな木片をゴーグルごしに顔全体で浴びながらアランは回転する刃を入れていく。回転を止める。確認する。指で触れる。また刃を入れていく。少しずつシェイプが溶けていく。より滑らかに。より肉感的に。
こうしてMIRADORも毎日その姿を変えていく。
MIRADORやARTIBARNの近くからメインステージに降りていく小道がある。その小道の両サイドには木々が生え、その間を蛍光色のストリングスが幾重にも走っている。夜になるとブラックライトが焚かれ、青く光る空間の中、幾何学的な線、フラクタルな線、何百もの線が張り巡らされたその小道を、メインステージへと続く異世界へのワープゲートへと変容させる。
その日、昼間にメインステージの設営を撮りに行こうと小道を下っていると、ペインターのエマニエルが木に蛍光色のペイントをしていた。小道に生えている木がそのまま彫刻として彫り込まれ、まるで『ロード・オブ・ザ・リング』のエントのよう。
「夜この小道を通ると、青い闇の中、コイツが光るんだよ。カワイイだろ?」そう言ってエマニエルはニッコリと微笑む。
どこかしらそのエント(仮)もユーモラスな表情。木のそばに置かれているボックスの中には蛍光の黄色に緑、赤に青にとあらゆる色が揃っていて、そのボックスを見ているだけでも綺麗だなと思った。パレットに塗料を開けると、目の前のエントに、ゆっくりと色による表情をつけていく。印象的なのは本当に彼が楽しそうに色をつけていく、その表情。
「ホント楽しそうだね」
「楽しいよ! 僕は元々絵描きなんだけど、今回はこのスペースの彩色を頼まれてるんだ。もちろん絵もMIRADORの方で描くんだけど、今はこれに夢中さ! 色によって表情が変わる。昼の表情と夜の表情。同じものなのにその時によって姿、表情を変えるんだ。夜の彼はもっと刺激的だよ」
そう言ってエントを指差し、またニコリ。こちらはその表情をファインダーに収めてパシャリ。
「夜も見てみなよ」
夜の小道はまた違う世界。
そしてメインステージ建設チーム。 メインステージの方へと降りていくと、10人程のスタッフがそれぞれの場所でステージの各パーツ作りを分担して作業していた。何人もの手によって毎日編み込まれていくメインステージのデコレーション。この年は、太陽の光を反射して淡く虹色のような光を放つ特殊なマテリアルを使って、メインステージの屋根部分が作られていた。その特殊な繊維をひとつひとつ手作業で編み込んでいく。膨大な時間と作業量。
何ヶ月もかけて紡ぎ出されるその屋根は、昼はそよぐ風と太陽の光に揺れ、虹のように輝きながら涼しさを演出し、世界中から訪れる何万人ものダンサーたちを暑い太陽の日差しから守ってくれる。夜はきらめくライティング、レーザー、めくるめくビジュアルの洪水を反射して温かくみんなを包み込む。
ワタクシはこのメインステージの屋根部分を織り込んでいく作業が大好きなのです。50代くらいの肝っ玉系母ちゃんを中心に、若手のスタッフも一丸となってひたすらに織り込んでいく。時間と想いを織り込んでいくようでとても美しい。
メインステージの屋根部分の織り込み部隊とは別に、ステージの基礎となるどデカい“ツリー・オブ・ライフ”のような樹のオブジェがクレーン車によって組み上げられていた。クレーン車が2台、主軸となる樹の幹部分から四方八方に延びる太い枝部分の取り付け作業をしている。
その下では、クレーン操縦兼作業指示を出す現場監督のクロツキー。
クレーン車の上には作業用ゴンドラがあり、そこには2名の若手スタッフが悪戦苦闘しながらパーツを少しずつ継ぎ足していく。暑い日差しの中での作業は難航を極める。とにかくひとつひとつのパーツがデカいので、ハイ装着♪ とはなかなかいかないようだ。角度を変え、位置を調整し、少しずつオゾラのメイン・シンボルたる大樹のオブジェを組み立てていく。
最も重要で大変な作業のひとつだけれど、フェスティバルがはじまった後は、何万人ものダンサーがこの下でシャウトすることになる。
そしてワタクシの大好きなフォトグラファー・チーム。
フェスティバルがはじまる少し前のミーティングの模様。この日オフィスでフォトグラファー・チームのみんなが集まり、フェスティバル中の作戦会議が開かれた。
フェスティバル中の撮影指示を出す取りまとめ役のリタ。ハンガリー人の渋めフォトグラファー、ゴティ。同じくハンガリー出身、優しく笑顔がステキな女性フォトグラファー、インディコ。いろいろお世話もかけっぱなしで頼れる職人イスラエリー・フォトグラ ファー、アミット。ちょっとオトボケ、でも気は優しいこちらもイスラエリー・フォトグラファー、ロイ。そして天才的かつクレイジーなイスラエリー・フォトグラファーのヨナサン。アッと驚く美しいビジュアルを写し込む、こちらも天才的フレンチ・フォトグラファー、ピエール。牛模様のレイヴ・カーでヨーロッパのフェスティバルを駆け巡り、ドローンもREDのカメラも、あらゆる機材を使いこなすレイヴ・マンこと、ポーランド人フォトグラファー、パウェル。
ひとりひとりが超絶ヤバい写真を撮りまくる、オゾラのオフィシャル・フォトグラファーたち。その写真の精度、技術、撮り方……。そのひとつひとつがあまりにも刺激的で、とてつもなく影響を受ける。
リタによってフェスティバル開始からのタイムテーブルがみんなの目の前に張り出され、誰が、どの時間、どの場所で撮影していくのかを検討していく。まずはオープニング・セレモニー。オゾラでの一大イベントのひとつ。
MIRADOR周辺から、CIRCUSアーティストたちの音楽に導かれながら、数千人のダンサーたちとともにフェスティバル会場の主立った場所を練り歩く。最後にDoomの中でAUMのマントラを唱え、祈り、それからメインステージ周辺に張り巡らされ、境界線となっているテープの前に立つ。合図があるまでは誰ひとり張り巡らされたテープの中には入れず、フェスティバル・スタートの音が鳴り渡る瞬間、数万人のダンサーたちが一斉に走り出し、津波のようにメインステージへと押し寄せる。
このシーンをあらゆる角度から抑えていく。各フォトグラファーが必要な画を抑えたら、ダッシュでオフィスに戻り、画像をチェック、編集し、『オゾリアン・プロフェット』隊長のゲリーに渡し、最終的にその中でチョイスされたものがその日の『オゾリアン・プロフェット』として発行され、会場内にいる世界各国の人たちに配られることになる。この日は時間勝負。より綿密に各々の位置どりや構図を検討する。
ドローン撮影ができるパウェルは、上空からメインステージになだれ込むダンサーの津波を写真と動画で収める。アミットはステージ中央から、望遠と広角のレンズを使いながらステージに押し寄せて来る大軍を、そしてヨナサンはステージ前面でスタートと同時に燃え盛る炎のセレモニー周辺を……、というように、各自が持っている撮影装備や技術等によって場所を決めていく。ワタクシは前述したDoomで、マントラを唱えるAUM in the Doomと呼ばれるセレモニーを撮ることになった。
「オーケー! そしたらドームでセレモニー撮って、その後メインステージに押し寄せる人撮って、その後超絶ダッシュでオフィス戻って写真編集して渡せばいいのね!? ね!?」
ジェスチャー混じりでダッシュの格好をしつつ、再三確認する。なんせここからは今まで以上に時間もシビアで、しかも新聞にも載るやもしれぬ重要な任務。外すワケにはいかぬ!
切羽詰まった顔でジェスチャーを繰り返すワタクシの姿がなぜかツボに入ったのか、
「オーケー! 撮ったらダッシュ! そしてオフィスで編集だ!」
とアミットや他のフォトグラファーたちがダッシュのマネをして爆笑している。いやいや、アンタたち慣れてるだろけど、ワタクシはオゾラ初参戦なのよ! そりゃ必死こくでしょ!
「わかった、わかった! Shoot and Dashだ!」
と言ってまだ笑っている。おのれ、いい画を撮ったるー!
フェスティバルの会場が創られるまでに費やされる膨大な時間と労力、注ぎ込まれる想いとエネルギー。 それらすべての工程やエネルギー、想いが、まさにひとつのオゾラ・フェスティバルという作品であり、参加者たちはその作品の中に入り込むことで、躍ることで、撮ることで、その作品を共同で創りあげていく。アーティストも、ダンサーも、このオゾラという場所そのものも、関わるすべてのものが一緒になって創りあげていく、そんなことを感じたのです。
フェスティバルの前夜には、恒例のゴアギルによる24時間セットがDoomにてはじまる。 まずは緩やかに音が鳴りはじめ、夜が更けていくとともにだんだんとBPMを加速させていく。高速に展開していくhigh-techの音。数千の電飾に彩られ、明滅する音と光の中、その高速のビートに合わせてフルに溢れるダンサーたち。Doomが振えるように揺れている。その中で、まるで瞑想でもしているかのように静かに音を繋いでいくゴアギルの姿。さすがレジェンド。
こうやってオゾラ・フェスティバルははじまっていく。
そしてこれを書いている今、ワタクシはブダペストにいて、今年の撮影の準備中。また、クレージーな夏がはじまります。
皆様もどうぞ1度はおいでませ、オゾラへ。
Have a Nice summer time☆
~~~MAGUレポートここまで~~~
さて、“a letter from OZORA FESTIVAL”は楽しんでいただけただろうか。MAGUのことだから、今年もいい写真をたくさん撮って持ち帰ってきてくれるだろう。
なお、2018年のOZORA FESTIVALについてはDance on the PLANETのオーバリー氏がわかりやすいイントロダクションをまとめているので、そちらもご覧いただきたい。
OZORA FESTIVALの動画はyoutubeに無数にアップロードされているが、短尺のOfficial Trailerがあったので最後にそれを載せておく。
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