texts & photos:momo
日時:2019年10月5~6日(土~日)
会場:高浪の池キャンプ場(糸魚川市、新潟)
かつてパーティーで遊びはじめた20年程前、噂を聞いたことがある。インドやヒマラヤにサウンドシステムを持ち込んで、辿り着いた者だけが味わえるPartyがある、と。
少々ドラマチックに書いたこのパーティーは、ASADA SOUNDとして知られるPAの浅田氏が主催し、今年で25周年を迎えるというLIFE FORCEのことだ。ロケーションが良いことでも有名で、野外パーティーとしては4年ぶりとなる今回は新潟県糸魚川市の高浪の池キャンプ場で開催された。
ひと口で新潟と言ってもエリアは広く、フジロックなどで知られる苗場辺りならば比較的東京からもアクセスが容易だが、今回の会場はひたすら遠く、あと10数キロも北上すれば日本海が見えるほどの位置まで北上し続けなければならない。
高浪の池キャンプ場の遥か背後にそびえ、池とともにこのキャンプ場のシンボルとも言える明星山(みょうじざん、みょうじょうざん、1188m)は全山が石灰からなる岩山で、ロッククライミングの名所としても知られているそうだ。この辺りは“日本のスイス”と呼ばれることもあるようで(もっとも同じような異名を持つ場所は全国に何ヶ所かあるのだが)、確かにネット上の写真などを見てみても、なるほどと思わせるような美しさを備えている。
キャンプ場のすぐ前に広がる高浪の池は、赤禿山(1158m)の1部が地滑りして出来た天然の池だということだ。歩けば15分ほどで1周出来てしまうそうだが、面白いのはこの池に巨大魚が住むという言い伝えがあることだ。実際、1960年頃から90年頃にかけて、体長3mとも4mともいわれる巨大魚の目撃談がささやかれていたという。真偽はどうあれ、パーティー会場としてはそそられる逸話だ。
都内から走ること約5時間、簡単に買出しを済ませて会場へと向かう。当初台風18号の影響から週末の新潟は雨予報が続いていたが、当日までには温帯低気圧へと変わり、設営のタイミングは雨に降られずに済みそうだ。
キャンプ場にさしかかる手前、曇りがちではあるがインフォメーションの写真にあった岩肌を剥き出しにしたワイルドな明星山がチラリと見える。ほどなくしてキャンプ場に着くと、先に到着して設営を終えていた友人家族に迎えられた。
駐車場からキャンプ場に入ると正面に芝生の広場があり、奥には高浪の池が広がっている。芝生の中央奥、池を背にしてドーム型テントのブースが設置されていた。
僕たちの基地は、池に向かい左手奥に回り込むように進み、ほんの少しではあるが高めの位置から高浪の池を望むことが出来る位置に構えた。少々わかりづらいので、後日描いた手描きの地図を載せておく。
今回キャンプをともにする3家族はそれぞれ子供たちがいて、どの家族もタープを持ち込んでいるので雨対策もバッチリだ。賑やかなリビングタープに焚き火台を設置し、友人は早速自宅から用意した大量の端材で火を灯しはじめた。
タイムテーブルは事前に告知されておらず、エントランスで手書きのものを発見した。
到着した時には既にフロアで音が鳴っていたので、テントまわりの設営を終えた僕はそのままフロアに向かった。ドーム型のテントの両サイドに鎮座しているのは浅田氏監修のもとにインストールされたPioneer Pro Audioのスピーカーシステムだ。
浅田氏とPioneer Pro Audioとの関係はHigherFrequencyのインタビューに詳しく書かれているのでそちらを参照してもらいたい。
フロアの両サイドにある黒くて四角い箱から溢れるサウンドは、重低音に角がない。耳からだけでなく身体中が触角となり、ありとあらゆる角度から音の粒が押し寄せて来る。フロア前方ブースから半径5~6メートルのあたりだろうか、左右の音がバランスよく混ざり合う辺りが心地よい。
フロア後方、駐車場から芝生に入ってすぐ右手の位置には、こんもりと盛り上がった部分に立派な大木がそびえ立っている。はるか昔からこの地を見守ってくれているのだろう。大木の前に小さくはあるが鳥居と祠(ほこら)が祀られていたので、まず挨拶に向かった。
100人も入ればいっぱいになりそうなフロアではまばらにオーディエンスが楽しんでおり、ビールを飲みながらフロアをうろうろしていると、テントサイトから人影が近付いてくる。W氏だ。
4年ぶりの再会だった。普段連絡をとらないのでLIFE FORCEで会えるとは奇遇だ。聞けば、共通の友人であるM氏ももう間もなく着くはずだという。前回2人に会ったのは、DJ K.U.D.O.の活動40周年にあわせて復活した“A.R.T.”でのことだ。
彼らとは2001年のザンビアで皆既日食をともにした仲なので、M氏が到着するまでの間、しばしザンビアの懐かし話に花が咲く。
17時頃ようやくM氏家族が到着、あと1時間もすれば真っ暗になるだろう。予定調和とも思える再開の喜びより、まずは設営だ。
長くこのシーンで遊んでいると、昔に比べて徐々にではあるが装備も充実してくる。M氏もタープ持参ということなので2人のテントで挟むようにタープを張ることにする。
しばらくパーティーからご無沙汰していたりすると、テントの張り方があやふやになったり、事前に持ち物チェックをしても見つからないものや、忘れてしまうものがあったりする。今回、M氏のタープにはロープがなかった。
普段なら予備のロープを持参しているが、あいにく今回は友人家族のテントにお邪魔しているのでロープの類は持ち合わせていない。とはいえ夜には雨の予報もあるので、何とか身の回りにある紐などを使って2つのテントのトップと六角形をしたタープの両端を結ぶ。持参したハンモックにロープが付属してるということなので、タープを広げて面積を最大にするように2本のポールを立て、ほどいたロープで地面にペグを打つ。張れずに垂れ下がっていたタープの一角には、余った紐でクーラーボックスを結び付け少しでも面積を稼ぐ。
M氏の奥さんも終始ニコニコと、万事上手くいくことをはじめから知っていたように見守っていてくれた。最近では足りない物がないくらい装備や情報などさまざまな物が充実していたが、何か少し足りなくらいを、自分たちの持てる知恵で乗り切るほうが楽しい。
暗くなってきたので我が家に帰ると、ありがたいことに地元の野菜と鶏肉をダッチオーブンで煮込んだ夕食が出来上がっていた。加えて、挽肉と豆をチリ風味に仕立てた夕食もいただく。夕食も済ませ、再びフロアに遊びに行く。
フロアでもすり鉢状の大きな焚火台で火を炊き、暖をとれるようになっていた。この季節の新潟に加えて雨模様なので、かなり冷え込むことをイメージしていたが、想像とは違い長袖にレインウェアを羽織る程度でちょうど良く、思いのほかすごしやすい気候だ。
暗いフロアには派手なデコレーションもなく、フロアの左側に設置された1人用の小さなテントから映し出されるシンプルなVJ。雨やら夜露やらで芝生は水滴を纒っており、テントから放たれる光の束で雨粒がキラキラしている。
小雨が降る中、レインウェアを羽織ってフロアで遊ぶ。辺り一面を白く覆っているのは霧なのか、それともフロア後方で燻っている焚火が、小雨によって今にも消されんと吐く煙なのか。僅かな光に照らされた雨粒は確かにこの目で見えるのに、長袖越しのレインウェアは不思議と濡れているように感じない。見えないバリアが張られているような不思議な湿度だ。子供からの問いかけの答えを探すように僕はタバコに火を付けて、大きく息を吸い深く煙を吐いた。
フロアはMaNAから、いつの間にかJeff23に変わっていたようだ。エッジの効いた硬めの音は何処までも深く連れて行ってくれる。
右側からもドームに向って光が放たれており、雨が降っているのを目で確認することで、つい現実に引き戻される。少しテントに戻って休むことにした。
テントの真ん中では子供が小さく丸まって寝息を立てていて、水滴で目が覚めないようそっと左へ身体を滑らせた。瞼を閉じていても頭の中はまだ覚醒しており、音の粒は今もテント内でふわふわと漂っている。まるで高浪の池の底で横たわっているようだ。しだいに雨音が激しくなっていった。寝ては覚めてを繰り返し、雨音が激しくなるにつれて外に出るのが億劫になった。
深い眠りから目が覚めると辺りは明るく、すっかり雨も止んでいた。
バナナを頬張り、Happy Shakeを飲みに行った友人につられてフロアに足を運ぶもコーヒーを飲むことにした。エチオピアの豆だったと思う、フルーティーな香りがするのを確かめて口に含む。ちょうどよい酸味だ。
Joe Eliceは明るくなる頃、ジャジーな雰囲気を漂わす軽やかな音を出していたようだ。
W氏曰く、朝靄のなか池のほとりを散歩していたら、明星山が1度姿を見せたらしい。山の裾から雲が引いて行き、徐々に岩肌が露わになるところを想像すると、まるで水墨画の世界に紛れ迷い込んだ気分になる。
子供たちからの誘いを断りきれずキャリーに乗せて駆け回っていると、音が最後に近づいているのに気付く。なんとか誘いをかわしフロアに立つとM氏夫妻もいて、太陽がほんの一瞬だけ顔を覗かせた。
僕らは必要な無駄を重ねて年をとる。いつかまた足りない部分を埋め合わせるために、必要な無駄を引っさげてパーティーへ出かける。
結局、僕はフロアからあの象徴的な岩肌を眺めることはなかった。
Peace
LIFE FORCEは1994 年9月、長野県大町スキー場で最初に開催されて以来、25年間数々の野外パーティーを開いてきました。それらの会場の一つ一つがどれも素晴らしい会場であり、訪れた人々に忘れがたい印象を残してきたのだろうと思います。
それゆえにあちこちで「野外はやらないんですか?」「今度の野外はいつですか?」などの質問をよく受けるのですが、そういう時にはいつも「良い会場が見つかったらやります。」と答えてきましたが、ようやく良い会場がみつかったので LIFE FORCEの野外を開催します。
今回紹介する会場は過去のどんな会場にもまさるほどの、神秘的な美しさをたたえた秘境にあります。会場の写真に写っている山は明星山と呼ばれていますが、その下を流れる小滝川は貴重な日本ヒスイの産地であり、国の天然記念物に指定されています。付近はジオパークにも指定されており、ワイルドな自然の美しさを残したままで整備が進んでいます。
東京からは信州安曇野を走り、白馬を抜け日本海に至るフォッサマグナに位置しています。そのため周囲の村はどこも温泉に恵まれていて、そのせいか有数の豪雪地帯にも関わらず人々は古くからの生活の場をいまも保っています。
こうした地理的影響があるのでしょうか、この池には体長3mを超す幻の巨大魚、「浪太郎」が棲むと言う言い伝えがあり、釣りキチ三平の題材にもなっています。食堂には手漕ぎボートの下を泳ぐ巨大魚らしき写真が飾ってあります。 神秘的なこの池に相応しい謎めいた存在であります。
それでは10月5日現地でお会いしましょう。
LIFE FORCE 浅田
DATE:2019-10-05 SAT
OPEN:15:00
VENUE:高浪の池キャンプ場
PRICE:ENTRANCE: ¥7500
LINE UP:
Line-up/
Jeff23 (SP23)
Joe Ellis (Freerotation/UntilMyHeartStops)
Shinya Okamoto (Foureal Records)
Harmonic Beat – Live
MaNA (Life Force)
pAradice (Life Force)
Ginji (Life Force)
Chini Maalt (India)
Novva (Life Force)
Sound Design/
Asada
Space Design/
Mixer
Bar/
Mangosteen Liquors