texts:A-sk, photos:momo&A-sk, movies:Golgo Night
日時:2019年8月23~25日(金~祝月)
会場:菅沼キャンプ村(利根郡、群馬)
2012年にスタートしたGLOBAL ARKはノースポンサー&完全DIYでありながらも、国内外のアンダーグラウンド・ダンスミュージックシーンの最前線で活躍する豪華ラインナップと高いホスピタリティでとても人気のある野外パーティーだ。2018年から会場が変わり、奥日光の群馬県側、尾瀬の程近くにある菅沼(すげぬま、すがぬま)湖畔の菅沼キャンプ村で開催されている。
菅沼は、清水沼・弁天沼・北岐(きたまた)沼の3つの湖の総称で、本州で最も透明度の高い湖として知られているそうだ。海抜1730mと標高の高いこの場所は、まだ蒸し暑い東京とは明らかに空気が違う。湖から吹いてくる風も気持ち良く、夏にキャンプをするには最適な場所だ。
オーガナイザーの1人であるDUBO(ダブオ)君から誘いを受け、ゴルゴさんとmomo君も誘ってFestival Tripチーム3人でプレス班として参加することになった。
■2019年8月23日(金)
夕方くらいに仕事が終わり、都内でゴルゴさんとmomo君をピックアップ、そのまま練馬から関越に入る。車内の空気が若干重いが、それは気のせいなんかじゃない。
DUBO君からGLOBAL ARKの記事をお願いしたいとオファーをもらったときは気軽に引き受けてしまったが、後出しジャンケンのようにオフィシャルの写真も撮って欲しいと頼まれ、それがもの凄いプレッシャーになっている。そのDUBO君とは、実は昨年のiLINXのパーティーでちゃんと話をするようになったばかりだ。
急遽、ゴルゴさんとmomo君を誘い、3人体制で臨むことにしたが、それでも撮影の不安は残ったままだ。とにかく最善を尽くすしかない。
会場への道中、PARAMOUT行きの車内で盛り上がった万引き話や、男子オンリーな車内ならではのエロトークなどの話題を振られるが、写真のプレッシャーでいっぱいいっぱいの僕は、
「そうすね……」
などと最低限の相槌しか返せない。momo君とは初対面ではないが、ちゃんと話すのはこれが初めてだ。よっぽど無愛想で暗い奴だと思われてるに違いない。
約3時間ほど走らせて沼田ICを降りる。しばらく夜の山道を走らせていると、
あッ!!!
道を渡ろうとした猫が車に気づき、メデューサに睨まれたかのごとく道の中央で固まってしまった。即座にハンドルを切り、ギリギリ猫を轢かずにかわすことができた。
ふぅーーッ、あぶねーーー……。
ホッとひと息、溜め息を漏らすと、すぐ隣りの助手席でゴルゴさんが、
「あれはイリオモテヤマネコだな、キラリ♪」
とドヤ顔で呟く。
「おー、こんなところで特別天然記念物のイリオモテヤマネコに遭遇するなんて幸先いいですね〜、ラッキー♪……って、んなわけないでしょがーッ!!」
などと普通にツッコむこともできず、
「へー、詳しいんですね……」
と、半目で正面を向いたまま素の返事を返してしまう。
「現地では“ヤマピカリャーヤママヤー”って呼ばれてるんだよ」
ゴルゴさんは気にもせず、ムツゴロウさん並みの無駄な知識を披露しているが、もはや僕は黙ったまま運転を続けるしかない。
沼田ICから1時間ちょっとで菅沼キャンプ村に到着した。時間はちょうど深夜0:00を過ぎたくらいだ。会場前で車を止めると、エントランスの頭上でミラーボールが輝いていた。
荷物を降ろし、少し離れた駐車場まで車を停めにいっている間に、テントを張る場所を2人が探しにいってくれていた。戻ってみると2人と一緒にバブルアーティストのOnchiがいる。GLOBAL ARKといえば(タイムテーブルにも使われている)湖の上でシャボン玉が浮遊している写真が印象的だが、そのシャボン玉を飛ばしたのがOnchiだ。今回も活躍してくれるに違いない。
Wood Landフロアではすでに音が鳴り響いていた。フロアのすぐ裏にテントとタープを張り、早速撮影に向かう。とにかく少しでも多く撮れ高を確保しておきたい。
Wood Landでは、ヨグさんことDJ YOGURTがプレイしていた。
フロアはかなり暗いが、VJの光がステージ周辺を照らし、ときどきOnchiのシャボン玉が風に流れてきてファンシーな雰囲気に仕上がっている。momo君とも写真を確認しあうが、いい感じに撮れている。
東京を出発する夕方頃、都内は雨が降っていたが、会場の空を見上げると月が綺麗に浮かんでいた。
初日は朝方まで写真を撮りまくり、音が止んだのでテントへ戻る。
ここ数日、東京はものすごく蒸し暑い日が続いていたので夏用の寝袋で十分だろうと軽装で来たのだが、菅沼キャンプ村の標高は1730m。4面を囲ったタープの中で寝袋に包まるが、それでも寒過ぎる。疲れていたからか、気づけば寝落ちしていたが、1時間も経たずに寒くて目が覚めてしまった。
■2019年8月24日(土)
明るくなってきたのでタープの外に出てみることにした。見上げれば青空が広がっている。1週間前の週間天気予報が嘘のように好天だ。
時間が経つにつれて日差しは強くなり、極寒だった気温も上がっていく。しかしここまで標高が高いと湿気はほとんど感じられず、木陰に入れば空気は冷んやりとしてまだ肌寒いくらいだ。
Ground Areaの奥には3つの湖のうちの1つ、清水沼が広がっている。近づいていくと木々の間から湖が見えはじめ、この会場が抜群のロケーションであることが体感できる。湖の水はとても冷たく、子供たちが脛のあたりまで水に浸りながら何秒耐えられるか、大きな声で数を数えながら競い合っている。
Wood LandとGround Areaをつなぐ小路がマーケットエリアだ。小さく個性的なお店が両側に並んだ様は、ミレニアム前後の裏原宿ヒッピー版といった風情でとても愛らしい。
12:30、Wood LandでDUBO君のプレイがはじまる。虎屋の芋羊羹のようにズッシリと重く心にのしかかるプレッシャーの中心源がDUBO君なわけだが、本人はいたって気立ての良い好青年だ。
午後1時、いよいよメインフロアであるGround Areaがオープン。オープニングのDJはStargateのDJ BINだ。
OnchiもAI搭載の自作オート・シャボン玉マシンを初導入し、いつものアナログなシャボン玉と両輪でフル稼働している。やはりこの会場にはシャボン玉がよく似合う。
湖畔の方に戻ってみると、ハンモックやキャンプチェアにくつろぎながら、家族連れや友人同士たちが午後の自由な時間を過ごしている。
再びGround Areaに戻るとDJはL…DEEPのhiroに変わっていて、ダンスフロアでは早速いつものケンシロウ・スタイルにドレスアップしたジュンさんが踊っている。
14:50、Wood LandでZEN○のプレイがはじまる。
ZEN○は今回、渋滞の中を7時間運転して会場まで辿り着いたところで音源がすべて入ったPCを家に置き忘れてきたことに気づき、そこからドラマティックな物語があったようで、それを朝の会場で聞かせてくれたのだが、話が長かったので半分忘れてしまった。面白い話ではあったので、興味のある人は本人に聞いてみてもらいたい。とにかくこの日のZEN○は、いつもにも増して吹っ切れた様子のプレイでフロアを沸かせていた。
15:40、Ground AreaではZIPNGでもお馴染みのeReeちゃんの時間だ。超アンニュイなプレイスタイルと渋い選曲で大人の男たちを虜にしていると評判だ♪
一旦テントに戻り、カメラのバッテリーやSDカードなどを入れ替えて体制を整え直す。時間は18:00を過ぎて、周囲もだいぶ暗くなってきた。
18:20、Wood Landで山頂瞑想茶屋×Kojiroのライブがはじまる。
夜のGround Areaの光がどの程度写真映えするのか心配だったので、Wood Landをゴルゴさんに任せ、momo君と僕はGround Areaへと向かった。途中、ライトが灯った裏原ストリートは昼間にも増して可愛らしい。
Ground AreaではすでにFake Eyes Productionがはじまっていた。
KagerouのVJとレーザー光線によるヴィジュアル・ショーは強烈で、心配していた光量も三脚を立ててシャッタースピードを稼げばなんとか大丈夫そうだ。
続いて19:40から、DO SHOOK BOOZE。激しいテクノ音で攻めてくる。
3人とも初日からほとんど不眠不休で動いていて、疲れが溜まっている。今夜から明日昼過ぎのラストまではピークタイムが続くから、体力を少しでも回復させておくためにひと休みすることにした。
ゴルゴさんとmomo君はそれぞれのテントに戻り、僕はタープの中でコットに横になる……、が! ここで問題が発生!!ピーー、ピーー、ピーーーッ!
カメラと三脚とを接続するクイックシュー、通称“フネ”と呼ばれる部品が見当たらない。普段はカメラ側につけっぱなしにしておくのだが、さっきGround Areaでバッテリー交換したときに一旦外して……、で、確かポケットに入れたような、入れないような……、いやいや入れたでしょ!しかしそのフネがない!
待てよ待てよ、落ち着いて……と。落ち着いて探せばあるはずだからさ。なにせ今夜はヘッドライナーが続くわけで、そこで三脚使えないとかマジ爆死じゃん。あるあるあるって………、お願い、あって!!
どこで失くしたのかまったく見当もつかないが、まずは身の回りをチェックする。コットに横になったときが1番怪しいし、意外とコットの上とか……、あるいは下とか……。いやいや、僕って意外と几帳面だから無意識のうちにちゃんとテーブルの上に置いたかな? んーーーーー、待ってよ待ってよ、落ち着いて、ね。行きの道でもイリオモテヤマネコ見かけたんだし、ツイてるはずなんだから!
しかしタープの中には見つからない。っくしょう、少し休みたかったがGround Areaまでの道中を探しに行くか……。タープから外に出て、1人で下を向きながらGround Areaへと向かう。ときどき誰かが話かけてくるが、ほぼまったく耳に入らない。と、に、か、く、見つかってくれ〜〜〜〜!
どれくらい時間が経っただろうか、僕はGround Areaの後ろで誰のものかわからない椅子に座ってうなだれていた。ヤバい……、終わった……。
あちこち探したけれど、見つからない。みんな楽しそうに踊っているが、僕1人井戸の底に叩き落とされたように気分は真っ暗だ。そして、もう会場着いてすぐに気が付いたが、今回のパーティーには僕ら以外にオフィシャル・カメラマンというのはいないようだ。つまり、僕らがきちんとした写真を残せなければ、ジ・エンド。耳元でジム・モリソンの歌声がリフレインしまくって頭がおかしくなりそうだ。
「どうしたの? なんだか国籍不明、謎の中国人みたいな顔してるけど……」
見ず知らずの女のコが話しかけてくる。
「もとからそういう顔なんじゃーいッ!!」
……なんていう気力はまったく残っていない。僕は泣きそうになりながら、ここまで辿り着いた経緯を話した。
「まあ! それは大変! だってアンタ、その部品見つからなかったらただのクズで役立たつなインポのエロオヤジじゃない! ま、見つかったとしてもギリギリの線だけど! とにかく諦めないでもう1度探してみなよ!」
そんなこと言ったって、もうあちこち探したよ……。僕は励ましてくれた女のコにお礼だけ言い残し、ついさっき来た道を引き返していった。
ヤバい……、これはヤバいぞ。僕1人ならまだしも、このままだと一緒に来た2人にまで迷惑をかけてしまう……。そうだ!いっそのこと2人がテントで眠ってるうちにサクッとタープを畳んで先にバックれてしまおうか! それがいい! ……いやー、どうせまたすぐどっかのパーティーで顔合わせるしなぁ……。このまま中国に帰国したいなぁ……。
ガックリと肩を落としたままタープの中に入る。さっきの女のコは「諦めないでもう1度探して!」と言っていたが……、もう探したんだよなぁ。とはいえ、もう1度タープの中をしっかり探してみる……、頼むよ……、お願いだから……ら……ら……ららら?
ラッキーーーーーーーッ!!
あったあったあった、あったぞーーー!!
なんと1番最初に探したはずのコットのすぐ下に落ちているではないか!こんのヤロー、心配かけやがって! 僕はホッと胸を撫で下ろし、見知らぬ女のコとヤマピカリャーヤママヤーに感謝の祈りをして、ようやくコットに横たわったのだ。
僕が深い闇の中を漂っていた時間、Wood LandではDJ KENSEI、須永辰緒、そしてDub SquadのTaro Acidaと個性的なDJが続いていた。外でテントのファスナーを開ける音がしたかと思うと、
「Taroさん撮ってくるわ……」
と、ゴルゴさんの声が聞こえた。
(後編へ続く……)